20230831
来週です。2000年代、すなわち「生活工芸」の時代をふりかえる座談にもなるでしょうか。よろしくお願いします。─
■木村衣有子+田中辰幸+菅野康晴|“生活”が主題になる時代とは─『俗物』刊行記念
□9月6日(水)19時半@本屋B&B+オンライン
bb230906a.peatix.com
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写真と以下は『工芸青花』17号「生活工芸と村上隆」特集より(2022年)
https://www.kogei-seika.jp/book/kogei-seika017.html
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生活も工芸もふつうの言葉だから、「生活工芸」もなんとなく意味はわかるはずだが、2010年前後から、それとはべつの意味をもつ、ある概念をさす語になった。以下はその、私(菅野)なりの定義。
「現代日本のバブル経済崩壊後に、もてる者たちが起動させた、もたざる者たちによる、もたざる者たちのための生活文化。〈もてる/もたざる〉は経済にかぎらず、人脈、権威、技術、地盤、経験、権利等」
そして「生活工芸」の時代は、以下の3期にわけられると考えている。
・初期/2000年代前半─メディア(ギャラリー、雑誌、スタイリスト等)主導期
・盛期/2000年代後半─作家主導期
・後期/2010年代前半─概念形成期
2020年の冬、美術家の村上隆さん(1962年生れ)と生活工芸派の作家(器作家)5人をたずねた。それから翌年の春にかけて、生活工芸を起動させた関係者(工芸店主、エッセイスト、スタイリスト、デザイナー)6人を取材した。
作家でありつつ批評家でもある村上さんの動機は、生活工芸が、マンガやアニメ同様に(無自覚ながらも)戦後日本を代表する文化たりえているのではないか、という問いだった。だとすれば、ときがたって雲散霧消するまえに、当事者たちの証言をあつめ、歴史化し、しっかり概念化すべき、と発破をかけられた。
2000年代、『芸術新潮』編集部にいて生活工芸派の記事をつくっていた私も当事者なのかもしれない。その意味で、村上さんとの旅は、昔日へ立ちかえるような、淡い郷愁をともなう旅でもあった。他方で、むろん村上さんにはそんな甘さはみじんもなかった。どこまでも文化芸術の力を信じる、憂国の人だった。S
20230827
このときはドイツ語圏、イタリア語圏、フランス語圏の順に、スイスを半周くらい(3分の2周くらいか)しました。チーズの国の印象。次の次の号(20号)でふたたびスイス・ロマネスクの特集を予定しています。─
特集「スイスのロマネスク─ミュスタイアのザンクト・ヨハン修道院」
■『工芸青花』13号 2020年
https://store.kogei-seika.jp/products/319
20230826
「土友の墓場」展をみてきました。いわゆる「おしゃれ」さのない、すなわちペラペラな感じをうけない、このところ世を席巻する「シンプル・モダン・日本」的意匠からとおくはなれた感のある会場/作品群が爽快でした。この「厚み」は、出品作家36組の個性の集積というよりも、「土(+火)」という回路(のみ)をつうじて彼らが(自覚的/意志的に)共有している共同性の厚みなのだろうと思いました。共同性(「土友」性)を個性よりも優先させている(ようにみえる)ことで、作品はおのずと無名性(近現代工芸の理想であり難所)に回帰し、その能動的/楽天的無名性とでもいうべき印象が(おそらく歴史的にも)新鮮な展観でした。明日まで。─
土友の墓場展|8月26−27日@カイカイキキギャラリー
https://gallery-kaikaikiki.com/
https://www.instagram.com/tuchitomonohakabaten/
20230826
デザイナー米山菜津子さんの連載「工芸時評」更新しました。本の印刷現場の写真と話。https://www.kogei-seika.jp/blog/yoneyama/006.html
20230823
お知らせ……明日8月24日(木)13−18時、seikashop オープンしています。『工芸青花』や本もならべていますので、よろしければおはこびください。東京都新宿区横寺町31 (神楽坂一水寮)https://www.kogei-seika.jp/gallery/img/20230619_kogeiseika_map.jpg
20230822
2日かよいました。彫刻のなかにいるような、それでいてみやすい美術館でした。─
特集「意中の美術館 6:ビルバオ・グッゲンハイム美術館の巻/中村好文」
■『工芸青花』10号 2018年
https://store.kogei-seika.jp/products/242
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建築家の中村好文さんが意中の美術館をたずねる旅、今回はスペイン北部バスク地方ビルバオにあるグッゲンハイム美術館です。開館は1997年、設計はフランク・ゲーリー(1929年生れ)。マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロック、サム・フランシス、アニッシュ・カプーア、ジェフ・クーンズ、ルイーズ・ブルジョア等々の作を常設でみることができます。アメリカのグッゲンハイム財団は現代美術の収集で知られ、ビルバオのほかニューヨーク(1959年)とヴェネツィア(1979年)にも美術館があります。
この〈丸めて放り投げた銀紙の塊〉(中村さん)のような外観のビルバオ・グッゲンハイムと、「普通の住宅」を標榜する建築家である中村さんとの相性はどうなんだろう、と取材するまえは思っていたのですが、いまでは「なるほど、たしかに」と得心がゆきました。また、ここには中村さんの「意中の彫刻家」であるリチャード・セラ(1939年生れ)の大作もあり、そちらについても読みごたえがあります。S
20230820
羊皮紙づくりの実習、講師の八木健治さんのおかげで、えがたい体験ができました。数百年まえの羊皮紙写本を複数手にとりながら、「記録」の動機/意志、媒体/素材/コストと残存率について考える機会にもなりました。次回は最終回「カリグラフィー」です。─
実習|金沢百枝監修|西洋中世美術の技法|全5回
https://store.kogei-seika.jp/products/1042
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八木さんから……古代から中世の書物文化を支えてきた素材「羊皮紙」。人間の歴史に欠かせない支持体ながら、日本では実物を見る機会は限られています。この羊皮紙ワークショップでは、まるまる1頭分のひつじ皮から、羊皮紙を作っていきます。脱毛、木枠張り、半月ナイフでの削り、軽石での磨き――それらの工程を交代で体験しながら全員で1枚の羊皮紙を仕上げます。中世の職人や修道士たちは、その上に端正な文字を書き、きらびやかな装飾を施しました。中世写本の実物も多数お持ちしますので、中世の人が触れた羊皮紙の感覚を指先で感じてみてください。神の言葉や物語、そして歴史を支えてきた素材「羊皮紙」を、その原料から完成品まで五感(嗅覚も)で体験できる講座です。
20230817
seikashopの8月の特集を更新しました。https://store.kogei-seika.jp/
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美術史家・金沢百枝さんが紹介する刺繡布とレース。インドの女子修道院で作られたものです。
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インドで暮していた子どものころ、もっていたハンカチはどれも修道女の刺繍入りでした。御紹介するのは、1990年代から2000年代初めに母があつめたものです。インドの女子修道院の針仕事のよさを知っていただけたら幸いです。(金沢百枝)
20230817
ひさしぶりに青花以外のトークに参加します。タイトルが不穏で、おふたりのお話もたのしみです。よろしくお願いします。─
■木村衣有子+田中辰幸+菅野康晴|“生活”が主題になる時代とは─『俗物』刊行記念
□9月6日(水)19時半@本屋B&B
https://bb230906a.peatix.com/
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主催者より|2022年10月7日(金)に鎚起銅器職人大橋保隆を出版人として、『俗物』が刊行されました。
本書は、「人生は何かを『欲望』し、その欲望を満たすために『ものづくり』がなされ、そのものが届いた人たちの『生活』が変わり、また別の何かを『欲望』するという循環のなかにある。」という文章からはじまります。
そして、『俗物』発売のおよそ3ヶ月前に上梓された、木村衣有子『家庭料理の窓』(平凡社)も『工芸青花』編集長の菅野康晴さんによる「あらたに物をつくること、道具について語ること。その「俗物」性を肯定する、これからの工芸の希望の書」という『俗物』への帯文も、ともに「生活」を起点としている共通性があります。
「“生活”が主題になる時代」とは、バブル崩壊後の揺り戻しとして、日本全体の凋落とパラレルな傾向としてあり、さらにコロナ禍によってより拍車がかかったと言うことができますが、『工芸青花』において、菅野さんが定義を試みてきた「生活工芸」という現象が前景化してきた時代と言うこともできそうです。
そんなお二人をお迎えして、それぞれにおける「生活」の変遷について、『俗物』編集にたずさわったツバメコーヒー店主 田中辰幸さんが聞き手となり、「“生活”が主題になる時代とは」と題して『俗物』刊行記念トークイベントを開催いたします。
「生活”が主題になる時代」の幕開けとして象徴的なことのひとつに「シンプル」(「なんてことないものとして見えてしまうかたち」『家庭料理の窓』82頁より)への回帰があるのではないか、と思っています。
『家庭料理の窓』(平凡社)において、1948年(昭和23年)に、柳宗理が白色のティーポットをつくろうとするも、絵柄のないそれは未完成品として、デパートに取り扱いを断られるというエピソードとともに、1952年(昭和27年)までに、柳宗理が世に出した白い器を、1981年にはじまった「ヤマザキ春のパンまつり」のそれとつなげるくだりがあり、それは、菅野康晴さんがずっと追いかけている古道具坂田の坂田和實さんが1999年に書いていた「十年来、オランダの運河から発掘された、文様のない白釉の陶器だけを集めていた。」(『ひとりよがりのものさし』(新潮社)30頁)というまさに「デルフト白釉」を思い出させてくれますし、ヨーロッパでは絵付けのあるものが評価が高い中で、デルフトの無地の魅力は、菅野さんが関わりつづけてきた「生活工芸」というムーブメントにもつながってくるように思うのです。
トークイベントでは、時代の変遷とともに「生活」という切り口において登場してきたお店や雑誌、作家を振り返りながら、2000年代の「暮らし系」「生活系」を経由して、2010年代、SNSの普及によってファッション一極集中の時代がおわり、さらに「ライフスタイル」という言葉に収斂していくことになったこれまでについて、ビール片手にご来場のみなさんといっしょに共有できる時間になれば、と思っています。
みなさまのご参加を心よりお待ちしております!!
20230815
古美術栗八・高木孝さんの連載「花と器と」更新しました。器は江戸ガラス徳利。随想は「今井正監督のこと」。高木さんデザインの映画祭ポスター、どれもすばらしい。骨董商になるまえは広告業界の売れっ子ADだったのに、「デザインっぽさ」がないのがさすがです。古物、古書の効能でしょうか。https://www.kogei-seika.jp/blog/takagi_hana/034.html
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高木さん監修の骨董通販サイト seikanet も本日公開しました。今回は石皿、鉈籠、蒔絵盆、漆桶など。
https://store.kogei-seika.jp
20230814
特集「村上隆と坂田和實」Takashi Murakami and Kazumi Sakata, the World Top Contemporary Artist and an Infulencer in Japan
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『工芸青花』9号 2018年
https://store.kogei-seika.jp/products/220
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昨年8月、美術家の村上隆さんが主宰するカイカイキキギャラリーで「陶芸←→現代美術の関係性ってどうなってんだろう? 現代美術の系譜に陶芸の文脈も入れ込んで」という展覧会がありました。出品作家は以下の7名です(李禹煥、菅木志雄、岡﨑乾二郎、日比野克彦、中原浩大、安藤雅信、坂田和實)。その展評というかたちで、ふだんはおもにカルチャー誌で編集執筆をおこなう井出幸亮さんに論考をよせてもらいました。
〈今回の展示において最も際立った重要な存在として考えられるのは、やはり「古道具坂田」店主・坂田和實だろう。というのも、坂田は自らの手を動かして作品を作り出すという通常の意味での「作家」ではないからである。(略)端的に言って、村上氏でなければ成し得なかった、エクスペリメンタルかつ野心的な試みだと思う〉
同展を村上さんによる「表現者としての坂田和實論」とみなし、それを読解する記事です。S
20230813
特集「川瀬敏郎の花」Ikebana by Toshiro Kawase
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『工芸青花』9号 2018年
https://store.kogei-seika.jp/products/220
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花人の川瀬敏郎さんの花、今回のテーマは「奇なるもの」です。川瀬さんの提案でした。文章は哲学者の井上治さんにお願いしました。
〈「神」や「奇跡」といった言葉の価値が暴落する現代社会において、「奇」もまた安売りされて久しい。もはや「奇を衒う」という段階にさえない、奇というパターンの劣化コピーが「奇なるもの」として氾濫している〉〈奇の凡俗化の要因には、芸術および芸術家の大衆化とともに、先述の画家に代表されるようなある種の作品を「奇」としてきたことに起因する奇の定型化もあるだろう〉
〈定型化〉にあらがいつづける定型詩人/花人があらわそうとした「奇」とはなにか。器はおなじ器です。S
20230812
募集はじめました。保田と民藝──意外な組合せのようですが、じつはそうではなく、ともに近代/戦前という時代性をつよくおびた思想/文化として、その共通性と差違を、あらためて参照すべきなのかもしれません。工芸界、デザイン界で民藝を語る人は多いですが、保田その他、同時代思潮との関連にもひろく眼をむけてほしいと思います。たのしみです。─
■講座|本と私1|前田英樹|保田與重郎と民藝
□9月22日(金)18時@工芸青花(神楽坂一水寮)
https://store.kogei-seika.jp/products/lecture-book-1
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小林秀雄と並ぶ存在でありながら、戦前から戦時中にかけての言動が誤解され、戦後は半ばタブー視されてきた、日本近代文学の忘れられた巨人・保田與重郎。その保田の文業を丹念に追い、彼は本当は何を書いたのかを解き明かしたのが、批評家・前田英樹さんの大著『保田與重郎の文学』(新潮社)です。
この本で前田さんは保田について、ドイツロマン主義を背景とした近代批判でもっぱら知られ、戦争賛美者として後に批判を浴びた従来のイメージを覆し、古典の解釈から日本の「神ながらの道」を説いた国学者たちの系譜に連なる、米作りと祭祀に基づいた真の平和を希求した文学者としての保田像を提示しています。それは本当の文学とは何かというテーマも含み、全37章、およそ800頁という大著でありながら、多くの人々に静かな感動を呼び起こしています。
今回の講座では、保田の戦後の主著の一つ『日本の美術史』でも論じられた「民藝運動」をテーマに、保田とのかかわりを前田さんが解説します。
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*『保田與重郎の文学』の「序章」を新潮社ウェブサイトにてお読みいただけます
https://www.shinchosha.co.jp/book/351552/preview/
20230811
公開しました。当日は満席の人気講座でした。─
通信講座|工芸と私29|毛涯達哉|古代文物と精神分析
https://store.kogei-seika.jp/products/lecture-kogei-e29
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毛涯さんから|ユングの定義した「元型」は神話・伝説・夢などに、時代や地域を超えて繰り返し類似する像・象徴などを表出する心的構造。それらは古代の造形の中に数多く見ることができます。講座ではユングの元型を中心に、フロイトらの心理学に登場する例を取り上げて、人間の普遍的無意識に迫ります。
20230809
明日8月10日(木)の13時から18時まで、seikashop を開店します。本や工芸品など展示販売していますので、よろしければぜひ。─
東京都新宿区横寺町31 一水寮101(神楽坂)
https://www.kogei-seika.jp/gallery/img/20230619_kogeiseika_map.jpg
20230808
単行本の校了作業をつづけながら、『青花』の編集もつづけています。そんな夏ですが、ときに〈スーッとするような絵〉や物とむきあう時間がおとずれます。そんな時間をあつめた本がつくれたら。https://store.kogei-seika.jp/products/4
20230803
駒場の民藝館へ。開催中の「聖像・仏像・彫像」展は、従来の民藝館の印象を更新する、意志的かつ蔵出し的好展(9月3日まで)。https://mingeikan.or.jp/exhibition/special/
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写真は1階の「ガラスと日本の磁器」室。涼がとれます。
20230802
〈かたまるや散るや螢の川の上〉。漱石句。日置路花書。─
seikashopの特集、更新しました(8月-1)。
https://store.kogei-seika.jp/
20230801
古美術栗八・高木孝さんの連載「花と器と」更新しました。器はパナリ陶片。随想は「小林正樹監督のこと9」。きびしく、けれどあたたかくもある別れの話です。https://www.kogei-seika.jp/blog/takagi_hana/033.html
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高木さん監修の骨董通販サイト seikanet も公開しました。今回はローマングラス、初期伊万里、時代花籠、酒袋、朝鮮膳の天板、瀬戸石皿など。
https://store.kogei-seika.jp