
71 南米の人面文土器
立春を過ぎてもまだ寒い日の続くこの時期、屋上は蠟梅等、春先に咲くわずかな花を残して、プランターの草花はすっかり枯れ、薄茶色の広がる殺風景な景色となっています。私はこの景色も好みなのですが、栗八の園芸スタッフはもの足りぬと感じる様で、数日おきに花屋さんから可愛い小鉢を買ってきては、あちこちに無造作に置いていきます。屋上に植え替えるつもりで買っているのでしょうが、植え替え用の土が届き、プランターの土替え作業がようやく終わる頃には、件の小鉢の花たちはすっかり忘れられた様子で、大概は植え替えを待たずに枯れてしまいます。乾燥の続くこの季節に、花屋さんの店頭用の粗末なビニール小鉢に入ったままなので仕方のないことですが、お祭りで子供がねだって買ってもらうヒヨコと同じ運命の様で、ちょっと哀れになります。掲出の花は、枯れる前に摘みとって土器に盛ってみたものです。小さな段ボール箱に入れられたヒヨコの様で、賑やかで可愛らしく感じました。花器は、詳しくないのですが南米の古代土器と聞いています。よく研磨されており、胴には顔のレリーフが続いています。
小山さんのこと その6
仏教美術を「うぶ出し」し、更に唐津や初期伊万里等の古陶も精力的に買い求めていた小山さんが、骨董屋になると言い出しました。
何も骨董屋にならなくとも、良い品が買えて、骨董屋とも良い付き合いができているのだからと思い、私は「止めとけば」と反対したのですが、もう、南青山で駐車場だった場所を借りて改装中とのことです。場所は骨董通りを一本入った小路で、自身の経営する会社からも近く、骨董屋を開くには便利な立地でした。小山さん好みのダークなトーンに統一された「古美術こやま」がオープンしたのは、それから間もなくでした。
小山さんの知り合いと云えば、甍堂での集まり(宴会)で知り合った蒐集家や、親しい骨董屋ばかりで、個人的に知ったお客さんはほとんどいなかったと思うのですが、開店以来「古美術こやま」は途切れることのない来客で賑わっていました。それまで精力的に駆け回って集めてきた品々が店頭に並ぶのですから、当然と云えば当然です。また、店の開店は、仏教美術が蒐集の対象として定着し始めた時期とも重なりました。
「古美術こやま」は立地の良さと、小山さん自身の、見た目は厳ついのですが初心者にも優しく仏教美術の魅力を説く親切な人柄から、またたく間に多くの蒐集家に知られる存在となりました。数多く並べてあった仏教美術の佳品とも云える品は並べれば売れて行き、飾り棚には空きが目立つ様になってきました。青井さんと私の主催する集芳会や他の交換会に小山さんが顔を見せる様になったのはその頃からです。品薄になった店頭に飾れる品を求めて、会にも参加する気になったのでしょうが、小山さんが思う様には買えません。知り合いの骨董商への遠慮もあって、好みの品が出てきても競り合いに参加しづらいといった側面もあったのでしょうが、それ以上に市場(交換会)独特の雰囲気に馴染めない様子で、いつも気がつけば会の途中で会場を去っていました。
市場を主な仕入先としている私などは、会の終わる最後の荷が開かれるまで何が出てくるかわからないので、辛坊強く(期待を込めて)待つのが常ですが、小山さんの場合は会の途中でも、知らぬ間に会場をあとにしているのです。これは云ってみれは、「今日の会の(今後の)荷にはもう期待しない」と決めて立ち去る様なものですから、品薄で、モノを仕入れる目的で会にやって来た動機とは矛盾するのですが、思った様に買えぬ場に長く留まることは、小山さには耐えられぬ空気だったのかも知れません。
多くの会は、その会でのベテラン骨董商が丁々発止とやり合い、新参者はなかなか競り声を掛け難い雰囲気は確かにあるのですが、集芳会は会に馴染みの薄い初心者でも、数回の参加で競りに参加できる様な雰囲気があります。また集芳会には小山さんの知り合いも多く参加していましたので、いずれは競りにも参加してくれるだろうと思っていたのですが、予想外でした。集芳会でも小山さんが競り声を掛けることはほとんどなく、時に買い落とす品も店に置く様な商品ではなく、家で普段使いにするための安い器類がほとんどでした。
品薄が続けば当然でしょうが、店へ訪れるお客さんも減ってきます。「うぶさ」にこだわってきた小山さんの姿勢が招いた、骨董商としての限界とも云える状況でしたが、蒐集家時代に染みついた「誰も知らぬうぶい品を買い出す」と云ったスタンスは、そう簡単に変えられるものではなかったのでしょう。
小山さんが珍しく他所の会に茶道具をまとめて出品したことがありました。どれもうぶい品なのでしょうが、競り声は低調で、ほとんどの品は売らず(売れず)に持ち帰ったことがありました。「うぶさ」にこだわり、守備範囲(好み)以外の茶道具を無理に買い求めてきたのは明白で、それへの市場の反応は冷淡なものでした。
*この連載は、高木孝さん監修、青花の会が運営する骨董通販サイト「seikanet」の関連企画です
https://store.kogei-seika.jp/