*この連載は seikanet(骨董通販サイト)の関連企画です
39 鉄吊り灯火器に須恵小壺
枯れた鉄味の吊り灯火器に須恵の小壺を添え、花器としています。花は黄葉し始めたマンサクの葉です。
ブログに載せる花の撮影は、いつも青花編集長の菅野さんが撮ってくれます。私の花は勢いで生けていますので、出来上がってきた写真で見ると、何とも陳腐な場合も多く、ボツにすることもしばしばで、菅野さんには迷惑をかけています。
菅野さんの撮影は長時間露光と云って、近頃では珍しい撮り方です。通常物撮り(ぶつどり)は、フラッシュ(強い光量)で撮り、撮影は一瞬で終わります(撮影までのセッティングには一定の時間を要しますが……)。菅野さんの撮影では、そのフラッシュを使いません。明かりをつけぬ曇天時の室内と云った薄暗さ(弱い光量)で撮影しています。
アングルを決め、ピントを合わせ、シャッターを押してから、撮り終える(シャッターが切れる)までに、数十秒〜数分はかかります。この間、被写体(花)が動いたり、撮影現場(カメラ)が何かの拍子で揺れたりすれば、写真はブレてしまいますので使いものにならず、撮り直しです。
この吊り灯火器の撮影では、私が勢いで生けるものですから、面倒をかけてしまいました。吊られた灯火器の微妙な揺れがなかなか収まらないのです。被写体(花と器)が、ピッタリと静止するまで菅野さんは辛抱強く待ってくれます。花(葉)の角度を少し変えるため、器に触れれば、また微妙に揺れます。また揺れが収まるまで、菅野さんは動かず、静かに、辛抱強く、待つ時間が続きます。
何でこんなに苦労する撮影方法を採用するのか……本人に訊いてしまえば済むことですが、尋ねたことはありません。尋ねなくとも、広告業界に長くいましたので、私なりに理解しています。フラッシュ撮影では、被写体(花や器)の陰影が、(光源と被写体の距離に比例して)背景にハッキリと写ります。一方、菅野さんの採用する弱い光の撮影では、影は薄まり、被写体(花や器)と背景との関係は、陰影ではなくディテール(質感)の差で現れます。その違いは、長時間露光の方が、より人間の目に近い(見たとおりの)写真と云えるかも知れません。
人はモノを見る時、いちいちフラッシュを焚きませんので、当然なのですが、それをカメラで再現するには、なかなかの苦労を強いられます。また、カメラの基本的な機能で、長時間露光の方が焦点深度(ピントの合う範囲)が深く(広く)なります。
スマホのカメラなら、曇天の弱い光でもスッキリと良く写り、ピントも簡単に合います。人の見た目に近い写真もラクに撮れますから、菅野さんの写真は現在のスマホ写真に近いと云えます。何ならスマホのカメラ機能でも良い様なものですが、本物のカメラとスマホのカメラ機能とでは根本的な違いがあります。それはレンズの大きさで、スマホカメラの小さなレンズでは、焦点深度は深いのですが、画像(被写体)に歪みが生じて……と、ますます専門的な話になりそうなので、この辺でやめときます。
今まで掲載された花の写真をご覧になっていただければ、その違いを皆さんにも判ってもらえると思いますが、表現(撮影)技法の違いや写真のクオリティなど、実のところ判ってもらう必要はないのかも知れません。見た目が心地よければ、良い写真と云えますね。
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