*この連載は seikanet(骨董通販サイト)の関連企画です
46 破れ須恵壺
この大きく破れた須恵壺は、数人が集まって開いた展示会で、通りに面したショウウインドウに飾られていたものです。何もここまで破れた須恵器を飾らなくても、もう少し気の利いた品や高価な品、流行の品もありそうなものですが、この破れ壺をショウウインドウに据えたところに、彼らの展示会への想い入れがある様な気がして、うれしくなりました。私が訪ねたのは最終日の昼ごろ、「これって(須恵壺)、ずっとあるの?」「うん、売れないね〜」「だろうね〜」「カッコ良いのにね〜」「ね〜」。値段を見ると、大割れの須恵壺にしては高めです。これで安ければ、さらにうれしいのですが……「まあ、買うよ」「お〜、ありがとう」
ヤツレの見える椿は、栗八の前の墓地から失敬したものです。ここ数年、この椿はあまり花をつけなくなりました。須恵の頸に収まる銅の落としを作ってもらい、そこに水を入れています。
光さんのこと その4
店を閉めた光さんは、業者の市場で品を買い、その品をまた別の市場で売る骨董屋になりました。骨董の世界で「ハタ師」と呼ばれる商いです。A市場で仕入れた品をB市場で売って利益を出す。ハタ師の仕事とは、その繰り返しです。
一方、顧客を相手に商いをする骨董屋は「客師(店師)」と呼ばれます。また、地元の名家や蒐集家を訪ねて、品を買い取り、市場等で売る骨董屋は「ウブ出し屋」とも呼ばれます。骨董の商い方は昔から様々にあり、客師がウブ出しをして市場で売ることもあり、ハタ師がお客さんに品を収めることもあります。私もそうですが、最近はネット(ヤフオクやInstagram)を使った新たな商いも浸透してきました。骨董屋と云う仕事のやり方も、ますます多様化していくことでしょう。
ハタ師は、A市場で買ってBの市場で売る。そこで利益を出して、生活や仕入れの資金を得る。骨董に馴染みのない方には、「何で、同じ品なのに値段が違う……」と不思議に思うでしょう。もう少し詳しく説明します。同じ品が、A市場では1万円で、B市場では10万円、C市場では1000円になる。「そんなバカな」と思われるかも知れませんが、それが骨董の売買です。
例えば、です。ボロボロの仏画がA市場に出たとします。そこは古伊万里や茶道具を専門とする業者が多く集まる市場で、仏教美術を専門とする業者は出席していません。つまり、価値の分かる(判断できる)業者がいない訳ですから、「ボロボロの仏画」はボロボロの仏画なりの値段(数千円かも知れません)で競り落とされます。
ところが、です。同じボロボロの仏画が、仏教美術や古書画を専門とする業者の多く集まるB市場に出されたとします。「ボロボロだが、大変に珍しい鎌倉時代の仏画」となれば、多くの出席者が欲しがり、数十万、数百万と値が競り上がる可能性もあります。
また、C市場にボロボロの仏画が出たなら「もしかすると、これは鎌倉時代の仏画かも知れない。とすれば他で高く売れるかも……」と、数万円、数十万円まで競って買い落とそうとする業者がいるかも知れません。C市場でボロボロの仏画を数万円で競り落とした業者が、高く売れると目論んだD市場に件の仏画を出品します。そこは仏教美術専門業者も多く集まる市場です。「イヤ、これは(すごい)」と一同騒然、思った以上に競り上がり、数万円で買った仏画が数百万円、これが俗に云う「掘り出し」です。
が、逆の場合もあります。「イヤ、これは(ひどい)」のひと言で、「ボロボロの仏画」値段でしか売れないと云うこともあります(たぶん、ほとんどがこちらの例です)。ハタ師とは、この様々な市場の特性を知り尽くして売買を重ね、そこで利益を出す商いです。骨董品の値の仕組みを少しお分かりいただけたと思いますが、先の話は極端な例で、そんな掘り出し物語が日常茶飯に起こるわけではありません。
日常(具体)的なハタ師の商いは……話が長くなりそうです。次回に。
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