56 中東の古代土器壺
紀元前と思われる中東の彩色古代土器で、底が尖っており自立しませんので、寝かせたまま、ラベンダーの大きく伸びたひと枝を切って挿しました。ラベンダーは香りが強く、葉先を強くつまめば指先に匂いが残ります。私はこの匂いが好きで、ラベンダーを見ると葉先をつまんで、指に残る匂いを嗅ぐのがクセになっています。花が好きと云うより、葉の匂いが好きで育てているラベンダーです。通りで出合う他所のラベンダーでも、見つければやはり葉先をつまんで匂いを嗅いでいます。ラベンダーの香りが好きなのかと云えば、芳香剤のラベンダーの香りは苦手ですので、実のところよく判りません。
コマちゃんのこと その5
再びタクシーに置き忘れたのは、青年座の次回公演、緒方拳主演、北条秀司原作『王将』のタイトル文字。北条秀司氏の直筆です。よりによって、それを失くしてしまいました。絶体絶命です……。
青年座のポスターデザインは、私が務めていた事務所(プラスアルファ)への依頼ではなく、以前から私が個人的に請け負っていたアルバイトですので、社長(松田さん)に善後策を相談することもできません。もっとも、尋ねたところで応えは決まっていたでしょう。「不注意で失くしたと、正直に伝えてきなさい」と言われたでしょう。どんな言い訳も通用しない事態ですから、私も覚悟を決めました。
『王将』のプロデューサー金井彰久氏に面会し、不注意でタクシーに置き忘れてしまい見つけられませんでした、と伝え、頭を下げました。激怒されるのを覚悟しての、しどろもどろ、汗だくの謝罪でしたが、黙って私の話を聞いていた金井氏が、テーブルの引き出しを開け、書類の下から紙切れを取り出し、私の目の前に広げました。『王将』のタイトル文字です。忘れ物が見つかって、ここ(青年座)に届いていたのかと驚き、一瞬安堵したのですが、違いました。
「もう1枚、書いてもらってある」。金井さんは私を見て、「今度なくしたらすいませんじゃ済まないから、事務所でコピーをとってから行くように」と厳命されました。「はい、そうします」。一件落着です。
『王将』のタイトル紛失にコマちゃんは関わっていませんし、私の自堕落な暮らしぶりが招いた結果でした。松田さんはそんな私に限界を感じていたのでしょう。以前(ブログ13・14)にも書かせていただきましたが、「大きな場所へ行ってみなさい」と、大手広告代理店で働くことを勧められました。自暴自棄になっていた私に代わって、転職への段取りも全て松田さんが整えてくれ、私は松田さんの口添えで、希望する広告代理店(東急エージェンシー)に採用されることになりました。
夜遊びや、pm7:30 の活動にも倦怠を感じていた頃でした。コマちゃんに会い、「プラスアルファをやめて転職する。もう夜遊びはやめる」と伝えると、「俺も(日本デザイン)センターをやめてきた」と言うので驚きました。「これから、どうする」と訊くと、「アメリカへ行く」と言います。驚きを通り越して呆れてしまいました。