60 松茸籠
「松茸籠」。仕入れる際に教えてもらった名前ですが、初めて知りました。籠の中に、すっかり枯れきった松葉が厚く敷かれて残っています。松葉は松茸が生えるという赤松でしょうか。この上に立派な松茸が置かれていたのでしょうね、きっと……。籠はまあ、ちょっと体裁の良い容れ物といった扱いだったのかも知れません。残念ながら栗八の屋上に松茸は生えませんので、今は秋草の籠として使っています。
サイトウさんのこと その3
「厳しさを知った」
サイトウさんは懸仏の一件を、後に友人にそう話したと聞きました。サイトウさんが感じた厳しさとは、思いやりなど二の次、とした、私の品(商い)に対する執着への感想だったのかも知れません。
開店後の一二三美術店は、安価でもモダンで見どころのある品が揃う店として、またたく間に多くの蒐集家に評判となり、今日に至っています。サイトウさんがデザイン業界の葛藤の中で培ってきた、“美の本質”を見失わぬセンス(心意気)が大いに活かされている品選びの結果でしょう。店に並ぶ品々は、人間性まで試される様な、価値(価格)への執着を生むものはありません。その様な品は扱わないと、心のどこかで決めたような品揃え(仕入れ)だと私は思います。彼はそんな品を“ジャンク”と呼んで謙遜しますが、骨董的価値に対する彼なりの潔さが具現化された品揃えと私には見えます。
一二三美術店が開店すると聞いた折に感じた“動揺”は、どうやら前時代的な骨董屋意識を引きずっている、私の杞憂だったようです。
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『古道具に花』
サイトウヤスヒコ著
神無書房刊 2010年10月発行
そんなサイトウさんが“花と古器”の本を出しました。出版は最近のことですが、彼からは「本が出ました」のひと言もありませんでした。本人いわく「何だか恥ずかしいような本」なのだそうです。私の様な前時代的骨董屋の見方を意識しての弁でしょう。
出版は白洲正子や川瀬敏郎、岡田幸三、秦秀雄等の花の本も出している神無書房。それだけでも大変なことです。私が神無書房に「花の本を出したい」とお願しても「いりません」と確実に断られます。
サイトウさんは先に紹介したとおり、商いでも、売り込むと云う行為の出来ぬシャイな性格ですので、云ってみれば業界でも地味な存在であり、目立ちません。しかし見る人が見れば、彼のの“美しさ”へのこだわりと、選択眼の良さは判るのでしょう。この『古道具に花』には、現代の骨董に求められるニーズが凝縮されているように思います。“美しさ”とは、“人々が日々の暮らしの中で愛おしみ、使い続けた末に生まれるもの”と、本に載る品々は教えてくれます。
注:本の問い合わせは、直接出版社へお願いします。(一二三美術店では取り扱っていないそうです)。ネットからはAmazon等の古書検索でも購入可能です。尚、一二三美術店は現在改装中で、骨董品はネットでの販売のみです。出品は少なくポツポツですが、ネット(HP)では、サイトウさんが扱った様々な品も見ることができて貴重です。以下のURLをクリックしていただければ「一二三美術店」のHPへアクセスできます。
https://hi-hu-mi.way-nifty.com/
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以上が当時の私のHP(ホームページ)に載せた一文です。一二三美術店はもうありませんが、サイトウさんのHPは今も残っており、サイトウさんが扱った品々を見ることができます。
*この連載は、高木孝さん監修、青花の会が運営する骨董通販サイト「seikanet」の関連企画です
https://store.kogei-seika.jp/