*この連載は seikanet(骨董通販サイト)の関連企画です


49 欧州の曲物と蓋物







花器は、モダンな彫りのある重厚な木の蓋物と、かわいい絵の描かれている曲物です。曲物はお弁当箱でしょうか、どちらも仕入れた時に国や時代を教えてもらったと思うのですが、すっかり忘れてしまいました。どうやら国や時代を訊くのは、私の場合は買うためのきっかけ作りで、買ってしまうと、もうどうでも良くなってしまう様です。たっぷりと盛った小さな花はユーフォルビア。ネットで調べたらユーフォルビア属は原種だけで2000種類以上もあるそうです。この花は、小鉢に「ダイアモンド・フロスト」と書かれた名札が挿されて花屋さんで売られていたものです。






光さんのこと その7


「Mさん、ちゃんと払ってる?」。集芳会の支払いについて光さんに訊かれた私は、不安に思い、代表の青井さんに訊ねてみました。「遅れることがあって、催促の電話をしたことがある」との返事でした。「何かあったのか?」と今度は私が訊ねられましたが、私は何も知りません。

Mさんは当時40代前半、店は古伊万里を中心に幅広く鑑賞陶磁を扱っており、古伊万里ブームの中、高額な品も盛んに売買する一人でした。私は値のはる古伊万里等はお客さんもなく、扱えませんので、商いでの付き合いはほとんどなかったのですが、会えば笑顔で親しく話しかけてくれる、気さくな人柄でした。

再会した光さんに「Mさん何かあったの?」と訊ねてみました。「実は」と切り出された話の概要はこうです。「最近、谷保天会で高価な古伊万里を売っている。どう考えても買い値に届かぬ安さでも売るので、よほど資金繰りに窮しているのかも知れない。私が思うに、早晩に資金ショートするかも知れない」とのことです。

会の仕入れの支払いには、現金会(当日に売買の現金決済をする会)と、延べ会(売った品代は当月受け取り、買った品代は翌月支払う)の二つがあります。つまり、延べ会で買った品の支払いはその場(当日)ではなく、1ヶ月後で良いのです。支払いを済ませる前に仕入れた品を持ち帰れますので、その品を支払いのくる前に売れば、手っ取り早く現金化することができます。例えば、10万円で仕入れた品が15万円で売れてくれれば、会の手数料(約5%)を差し引いた14万2500円が手元に残ることになります。このうち10万円を支払いに回し、残りは利益として、生活費や次の仕入れ代に回すことができる訳です。

この様に上手く売れてくれれば良いのですが、10万円で仕入れた品が、すぐ他の会で15万円で売れることは滅多にありません。上手く行って11万円、ほとんどの場合、競り声は5〜8万円止まりでしょう。資金的に余裕があれば、売らずに持ち帰ることもできますが、資金的な余裕がなければ、損を覚悟で、とりあえず現金を求めて売ることもあります。こうなると、とりあえずのお金は入りますが、次第に会への支払いに回せるお金や活動費が足らなくなります。

数万円の損で済んでいるうちなら、高い品が売れてくれれば、窮していた資金繰りも落ち着くのですが、不安定な骨董の商いはそう上手く行くとは限りません。当初は数万円だった赤字が、やがて数十万円、数百万円に膨らみ、生活費にさえこと欠く事態もあり得ます。その様に切羽詰まった経済状態の時に、延べ会を利用した苦肉の策とも云える金策方法があります。

ややこしいお金の話で、長くなりそうです。詳しくは次回に。



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