67 時代鉄吊灯火器





金味、形共に古格のある鉄の吊灯火器で、桃山江戸初期は十分にありそうです。花はサザンカで、屋上からではなく、栗八前の小さな児童公園から手折ってきたものです。写真は一昨年の冬に撮ってもらっていたのですが、花器の存在感に頼り過ぎて花を活かしきれず、凡庸な印象となってしまいましたので、ボツにしていた写真です。

この冬、このサザンカはもうありません。公園の脇に5、6本あった、3メートルほどの高さのサザンカは、今年の夏に重機で根こそぎ掘り起こされ、太い幹はバラバラにへし折られ、残土と一緒にトラックで運ばれていきました。木のあった場所には枠が造られ、今はフェンスの基礎となるコンクリートで固められています。東京都(港区)が児童公園と公衆トイレを改修して、今春には明るい広場としてオープンさせるのだそうです。今まで公園を囲む様にあった植栽も全てコンクリートで固められ、ヒマラヤ杉2本だけが残されました。春から夏には様々な鳥たちがきて鳴き交わしていた大きな広葉樹も切り倒され、地に深く張っていた根も掘り出されました。根のあとにできた大きな洞は、運ばれてきた土で均され、その上をコンクリートで固められてしまいました。

公園と公衆トイレの改修は、近隣住民と商店街の要請とのことでしたが、説明会に出向いた近隣住民、商店主は皆一様に改修計画に批判的な意見ばかりを述べていました。担当者は「皆さまからいただいたご意見は持ち帰って検討させていただきます」と応えただけで、何の変更も加えられぬまま、改修は現在も着々と進んでいます。

樹齢数十年の大木を切り倒し、下草(彼らには手間と費用のかかる雑草なのでしょう)も生えぬコンクリートで全てを覆ったあとで、やがて明るくモダンな公共広場に生まれ変わるのかも知れません。今、サザンカの消えた公園では、ヒマラヤ杉が所在なさそうに立っています。


小山さんのこと その2


小山さんが甍堂の宴会に参加することになりました。当時、青井さんの自宅に数名の骨董好きが集まり、飲み食いしながら歓談、半日を過ごす不定期の集い(宴会)が度々行なわれていました。多い時には週に1度、少ない時でも月に1度は、その日に都合のつく者が集まり、青井さんが新たに仕入れてきた品が次々と並べられる前で、賑やかに談笑したり、買い物を楽しんだりしていました。

「小山さんも呼んだら……」と言い出したのは私だったか、青井さんだったか忘れましたが、青井さんから声をかけられた小山さんは、早速皆の揃う宴会にやってきました。小山さんは大柄で、白髪混じりの豊かな髪と髭をたくわえ、私たちよりずいぶん歳上に見えて驚きました。てっきり私たちと同世代と思っていましたので……。それ以上に驚いたのが、一緒に連れてきた女性です。まるでプロダクションの社長兼マネージャーが、オーディション会場に連れてきたモデルの様に見えました。私は当時デザイン業界にいて、その様なオーディションの場を経験していましたから、そう感じたのでしょうが、集まっていた皆も一様に連れの女性に見惚れている風でした。「女房です。よろしく」と少し照れくさそうに紹介するので、一同またビックリです。

宴会ともなれば酒もすすみ、皆との歓談にも熱がこもってくるのですが、小山さんは私と同様、お酒は飲まず(飲めず)、楽しそうに会話の輪に加わり、初対面とは思えぬほど皆とすっかり打ち解けた様子でした。

次の宴会にも小山さんと若い奥さんはやってきました。青井さんの仕入れてきた骨董が差し出されると、「幾らだ」「買う」「高い」「スゴイ」等々、賞賛を含む様々な言葉が飛び交うのですが、小山さんは終始にこやかに無言、皆が発する言葉の端々から、モノについて学んでいる様子です。なるほど、骨董にあまり詳しくないと青井さんが感じたのは当然だし、本当だなと私も思いました。

私ともすっかり打ちとけた小山さんが、表参道のマンション住まいで、レンダリング(建築)パース会社の経営者であると知り、私は南青山でデザイン会社を興したばかりでしたので、互いに親近感を感じる様になっていました。「今度はうちに……」と、仕事場から近いこともあり、お互いに度々行き来する様になりました。小山さん宅で、品を前に様々なことを語り合う時間は、私にとっても得難く貴重な時間となりました。それと云うのも、当時の私の資金力では買えぬ様な骨董(主に仏教美術)を、小山さんは甍堂はもちろんですが、他にも各地を旅して次々と買い求めてきては、私が訪れる度に見せてくれたからです。精力的な行動力と吸収した知識で、蒐まってくる品々を前にして、奥さんを含めた3人、あるいは青井さんとの4人で様々に語り合う時間は実に楽しく、時には明け方まで続くこともありました。

そんなある日のことです。いつもの様に伺うと、小山さんが木箱を持ち出してきて、蓋を開けます。収まっていたのは緑青に覆われた丸い銅板、どうやら大きな鏡像の様です。手に取らせてもらうと、見事な蔵王権現像が彫られています。「どうしたの」と訊くと「奈良で買ってきた」と……。奈良で蔵王権現と云えば金峰山経塚です。



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*この連載は、高木孝さん監修、青花の会が運営する骨董通販サイト「seikanet」の関連企画です
https://store.kogei-seika.jp/

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