23 古代青銅碗
屋上の椿は栗八脇の墓地から頂戴し、花器に活けた枝を、挿し木して育てました。墓地の椿に比べれば細い幹ですが、わずかな花を咲かせてくれます。木が小さいので、花も枝も手折らずにいますので、時期がくれば花は落ち、プランターの中や屋上の床で枯れていきます。この一輪は、傍に置いてある睡蓮の水鉢に落ちていた葉と花です。赤を深め、ビロードの様な質感で水底にとどまっていました。花が崩れぬよう静かに掬いあげ、水を張った青銅の碗に移しました。
碗は古代オリエントの青銅器で、完好に見えますが、仕入れた折はクラックや粗い修理痕がありました。知人に紹介してもらった、鎌倉の金工修理を専門とする方にお願いしたところ、ここまで見事に蘇って帰ってきました。大いに喜んだのですが、さて修理箇所が何処だったのか……もう判らなくなっています。
日本映画学校のこと 今村昌平さん その2
横浜放送映画専門学院に私を再び呼び出したのは、講師の沼田幸二氏(以下、沼田さん)です。沼田さんも馬場当氏同様、初期の今村昌平映画で脚本を共同執筆している脚本家で、学院では演劇指導(俳優養成)と広報を担当していました。
沼田さんから、以前の学院生募集広告を見せられました。電車内の広告で、学院が毎年新入生に実施させている、福島(会津若松)での農村実習(田植えの手伝い)と云うユーニークかつ過酷な、およそ映画制作とは関係なさそうな内容(撮影現場での根性を養う、と云う点では、関係はあるかもですが……)でした。
入学前の若者がこれを見せられたら、当然尻込みするでしょう。イヤ、それ以前に、この学院はやめよう、となるでしょう。実際に年々受講生も減少しているとのことで、そうなるのも当然の気がしました。
学院の売り(軟弱な若者の根性を鍛える農村実習)はひとまず脇に置いて、せっかく今村昌平の私塾なのだから今村昌平を前面に出した広告にしましょう、と提案し、沼田さんからも、いくぶん懐疑的ながらも承諾をもらい、製作予算を確保してもらいました。作った広告は、マドロスに扮した今村昌平(イラスト)がドンとあるだけのシンプルなポスターで、これが横浜駅や映画館等の各所に貼り出されました。
今村昌平はかつて日活の監督でもあったし、学院は港ヨコハマですから、マドロスでしょう。呆れる様なコンセプトでしたが、映画関係者からは大いに反響がありました。「あの今村昌平(以下、今平さん)がよくこれを許可したものだ」と云う反応がほとんどだったと聞きましたが……。
実は今平さん自身は、ポスターが貼り出されてから初めて目にしています。沼田さんがお叱り覚悟で独断専行した広告でしたが、ポスターを見た今平さんは「満更でもない」反応だったそうです。
広告の良否は別として、今平マドロスポスターの反響の大きさをイチバン喜んだのが沼田さんで、広報(広告)が他者に届いていると云う実感を得た沼田さんから、私は全幅の信頼を獲得することができました。
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