岐阜の GALLERY crossing 監修による、1980-90年代生れの作家7人による展観。crossing 代表・黒元実紗さん(1982年生れ)の今展のテーマは、(私が思うに)現代において、美術と工芸を架橋する作品(のみ)がやどすつよさの理由はなにか。美術にあこがれる工芸にも、工芸を利用する美術にもしらけてしまいがちだけれど、古くてあたらしくもない(と思っていた)近代日本の「美術/工芸」問題に、作家の声(信念)をつたえつつ、あらたな光をあててくれます。


会期|2024年5月31日(金)−6月4日(火)
   *5月31日は青花会員と御同伴者1名のみ
時間|13時−20時
会場|工芸青花
   東京都新宿区横寺町31 一水寮(神楽坂)
監修|黒元実紗(GALLERY crossing)
出品|アラーナ・ウィルソン/市川陽子/𡧃野湧/笹川健一/染谷聡/中沢学/山西杏奈


講座|黒元実紗+出品作家|2020年代の「美術工芸」
日時|5月31日(金)18時−20時
会場|悠庵
   東京都新宿区横寺町31 一水寮(神楽坂)
https://store.kogei-seika.jp/products/lecture-kogei-76







黒元実紗 KUROMOTO Misa
1982年、愛知県生まれ。東京藝術大学美術学部を卒業後、飲食関係の企画会社に勤務。2011年名古屋でフリーランスフードデザイナーとして活動、食をテーマにした企画スペースを運営。2017年岐阜県美濃加茂市にて「crossing」をオープン。2019年に「GALLERY crossing」と改称し、現代アート・工芸の領域を超えて普遍的な問いかけへのアプローチを実践する現代作家作品を紹介する。2022年ギャラリーを現在の場所に移転。


今展によせて  黒元実紗


GALLERY crossing は現代アート・工芸の領域を問わず、普遍的な問いかけを持つ現代作家にフォーカスし、年10回程度の企画展を開催しています。最近では特に、東洋的美意識へつながる不可視領域や気配への感覚、自然と人との関係性に問いを持つ作家に着目し、国内外を問わず、若手を中心とした作家作品を紹介しています。
 ギャラリーのスタンスとして、工芸というものをその外側から眺めてきた感覚があります。現代アート・工芸を問わず、様々なジャンルにおいて領域の境界が曖昧になっている時代と言われていますが、立場を変えて眺めると、ボーダーは明確に存在し、曖昧という言葉に甘んじず、境界への意思ある眼差しこそが重要なのだと思います。
 物と情報に溢れ、価値が多様化・変化する時代、今これからを生きる私たちは「私たちはどこから来て、どこに立ち、どこへ向かっていくのか」ということについて、今以上に自覚的になり、自ら取捨選択する必要があります。工芸のコンテクストとその境界に触れること──美意識、精神性や文化・歴史や素材に紐づく民族的ルーツへの視点は、その大きなヒントになるのではないでしょうか。
 今回ご紹介する7名の作家は、それぞれが異なる領域で活動しながら、ギャラリーのキュレーションコンセプトを体現する共通項を持っています。この場をお借りすることで、いつもとは違った深度で工芸という文脈に接続し、作品を通じて立ち現れるギャラリーの視座を示すとともに、作家其々の持つ言葉、工芸へのまなざしを展覧できればと思います。
 最後に、今回、菅野さんと改めてお話をするきっかけをくださった、ギャルリ百草の安藤雅信さんと、発言の場をくださる菅野さん/工芸青花の懐の深さに感謝を申し上げます。










上から
GALLERY crossing(2024年3月のグループ展)
黒元実紗さん@GALLERY crossing
染谷聡《みしき#20》
笹川健一《破れ壺−Void》
山西杏奈《untitled》 *参考図版
アラーナ・ウィルソン《Poem TB》
アラーナ・ウィルソン《Poem TB Stitch IV(Bistre, Fawn)》(部分)
写真提供|GALLERY crossing

アラーナ・ウィルソン Alana WILSON
1989年、オーストラリア・キャンベラ生まれ。ニュージーランド国籍を持ち、シドニー National Art School で陶芸を学ぶ。現在はシドニーを拠点に活動しながら様々な国に滞在し、リサーチと制作を行う。陶器を主なメディアとし、実用を主題としない器の表現は、陶芸技術の長い歴史──古代の人々が生きた軌跡、それらが延々と続く今への時間の流れのメタファーであると同時に、自然と人間との関係性に問題を提起する。

市川 陽子 ICHIKAWA Yoko
1985年、大阪府生まれ。京都市立芸術大学工芸科漆工専攻修了。大学在学中より漆皮技法への興味を深め、研究と実験を積み重ねることで独自の表現へと昇華させる。自ら紐解いた漆皮の持つ歴史を背景に、自身のものづくりのルーツである、縫い・繕うという行為と、彼女の持つ死生観を重ねて制作を行なう。

𡧃野湧 UNO Yu
1996年、大阪府生まれ。京都市立芸術大学大学院修士課程陶磁器専攻を修了。人とやきものとの新しい関わり方を提示し、やきものの新たなあり方を提案するアーティスト。陶磁土素材の割れや欠けといったやきもの特有の脆さや、われもの素材の保存方法に着目し作品発表を行う。

笹川健一 SASAKAWA Kenichi
1981年、神奈川県生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程工芸専攻修了後、財団法人金沢卯辰山工芸工房研修生。2010年より14年まで多摩美術大学工芸学科ガラスプログラムの助手を務め、現在京都府にて制作を行なう。ライフワークとして長らく「うつわ」に向き合い、うつわを通して日本文化特有の美意識を表現する。

染谷聡 SOMEYA Satoshi
1983年、東京都生まれ。幼少期をインドネシアで過ごす。2014年京都市立芸術大学博士課程修了、博士号(美術)取得。 装飾を「人々の遊び心や情緒、記憶を表象する〈読み物〉」と捉え、主に漆の装飾に焦点をあてた作品制作や調査を行う。

中沢学 NAKAZAWA Gaku
1991年、長野県生まれ。京都伝統工芸大学卒業後、木工藝佃・佃眞吾氏に師事。2017年、信州に戻り家具メーカーに入社。2022年、生まれ故郷の坂城町にて独立。

山西杏奈 YAMANISHI Anna
1990年、大阪府生まれ。京都市立芸術大学工芸科漆工専攻修了。2017年、KulttuuriKauppila(ii/フィンランド)でのアーティスト・イン・レジデンスに参加。2023年「ARTISTS' FAIR KYOTO2023」に参加、優秀賞を受賞するなど、精力的に制作活動を行なう。布や紐などをモチーフに、木彫作品を制作するアーティスト。

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