『工芸青花』12号(2019年夏刊行予定)でアイヌ特集を組むことになり、何度か札幌へゆきました。そのとき、ギャラリー「sabita」の吉田さんがまっさきにつれていってくれたのが「古道具十一月」でした。店主の倉谷さんともその後、取材をともにすることになり、倉谷さんがあつめたアイヌの器物も撮影、掲載しています。だから今展は、12号刊行記念でもあります(掲載品の多くが出品されます)。
倉谷さんと話していて、つよく感じるのは、彼女のまなざしのやさしさ、ていねいさでした。骨董は「眼利き」や「美学」といった言葉で語られることが多く、基本的に(右派左派とわず)、選別/排除の論理が支配的なジャンルです。けれども、古道具十一月の戸棚にしまってあった(おそらく売るあてのない)さまざまな、厖大な数の古釘をみたときに、強者的な選別/排除とはべつのまなざしを発見した気がしました。「発見」というのは、それが「選別/排除」でも「なんでもあり」でもない、もしかしたらあらたな(いまだ名づけられていない)論理かもしれないと思ったからです。(菅野)
会期|2019年8月30日(金)-9月8日(日)
*8月30日は青花会員と御同伴者のみ
時間|13-19時
会場|工芸青花
東京都新宿区横寺町31-13 一水寮101(神楽坂)
出品|倉谷弥生(古道具十一月)
倉谷弥生 くらや・やよい
道具商。札幌「古道具十一月」店主。2003年11月にオープンしました。自分でできる範囲のお店を考えた時、昔から好きだった古いものを扱いたいと思いました。古いものは相場の決まったものもありますが、個人によって価値が大きくかわるものがあります。そして自分が信じるものはなんでも売ることが出来ます(常識の範囲で)。自分にとって喜びの大きな仕事でした。
今展によせて 倉谷弥生
今展のお話をいただき、どんなものを展示したいだろうか、なにを選ぼうかと思い、今までどうやって古いものを選んできたのかを考えてみました。すると、理由を考えて選ぶことはほとんどない事が改めてわかりました。例えば道具のようなものを選ぶ時、本来の用途で使うことはもちろん考えられますが、道具としての具合よりも、きれいだとか面白いだとか、そんな単純な気持ちが優先します。心が躍る、ゆれる、ざわつくなど、出会ったもの中にそんな気持ちを見た時、やはり理由は考える事なく手に取ってしまいます。困った気持ちにさせられるものもあります。非常に気に入るものに出会った時、困った困った参った参ったというわけのわからない気持ちで理由は考えず手に取ってしまいます。そうして選んだもののほとんどは自身の生活を考えると無くても困らないものなのですが、あると具合よく、机の上にあるだけでわけもなくうれしい。そして万が一そんなものが役に立った時の喜びは普通以上です。本来の仕事ができる古道具はほとんどありませんが、別の形でどなたかのお役に立てる事を願っております。