『工芸青花』8号刊行記念として、西洋中世のロマネスク美術をテーマとする展示をおこないます。修道院(ラ・グランド・シャルトルーズ)でつかわれていた器や、中世の聖堂タイルほかの工芸品、ヨーロッパ各地の修道院からとりよせた蜂蜜、ジャム、石鹸等の品々、ロマネスク聖堂の写真や絵葉書も販売します。会期中には、2014年公開のドキュメンタリー映画『大いなる沈黙へ』の舞台、ラ・グランド・シャルトルーズ修道院についての講座も開催します。よくきかれるのですが、多元的、混血的なロマネスク美術について知ることは、画一化する社会、集団に風穴をあけることとも思ってつづけています。S
会期|8月24・25・26・27日(木金土日)
8月31日・9月1・2・3日(木金土日)
9月7・8・9・10日(木金土日)
時間|12-19時
会場|工芸青花
東京都新宿区横寺町31-13 一水寮101(神楽坂)
監修|金沢百枝(美術史家)
講座|杉崎泰一郎|ゆたかな沈黙―ラ・グランド・シャルトルーズ修道院
日時|8月27日(日)15−17時
会場|一水寮悠庵
東京都新宿区横寺町31-13(神楽坂)
定員|25名
会費|3500円
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「修道院」展によせて 金沢百枝
修道院は、神への祈りに一生を捧げた人々の修行と共住の場ですが、その歴史をふりかえると、ヨーロッパ文化の形成に大きな役割をはたしてきたようにも思います。古代の書物をまもりつたえただけでなく、たとえば、小文字も楽譜も修道院で生れました。
修道院の創造性を現代に継承した例のひとつが、フランス、ブルゴーニュ地方のサン・ピエール・キ・ヴィール修道院です。このベネディクト会の修道院は第2次大戦後に寄附が激減、経済的危機に瀕していました。1951年、その打開策として、若き修道士アンジェリコ・スルシャンさん(1924年生れ)がはじめたのが出版業でした。「l'art sacré(聖なる美術)」をテーマに本を制作、刊行したのです。最初の1冊『ブルゴーニュのロマネスク』がヒットしたことで、修道院はその後半世紀にわたり、ヨーロッパ各地のロマネスク美術を紹介するシリーズ「La Nuit des temps(久遠の昔)」をつくりつづけます(通称「ゾディアック叢書」。書籍とともに刊行していた季刊誌『ゾディアック』に由来)。その数、じつに300冊以上です。
ロマネスク(10世紀末‐13世紀)はとくべつな時代だったと、私は思います。ヨーロッパにおいて、古代以来の美的規範を逸脱したほぼ唯一の時代だからです。当初は規範に反するつもりはなかったはずですが、つたえたいことをうまく(効果的に)つたえたいと試行錯誤するうちに、規範をはなれ、自由になってゆきました。動物たち、怪物たち……キリスト教では解釈できないものたちがたくさん登場する、ゆかいな美術です。
アンジェリコさんは抽象画を描く画家でもありました。彼が撮る(撮影も編集もこなしました)モノクロームの写真は、構図もすばらしく、みていると、聖堂の静謐な空間に身をおいているような気持になります。また、彼がきりとるロマネスク彫刻、絵画のディテールは、まるでモダンアートのよう。対象の選択に説教じみたものがなく、かたちの美、ときにはユーモアを優先しているようにみえます。私はこの20年近く、アンジェリコさんが本にしたロマネスクの聖堂をたどっているのですが、旅のあと、もう一度「ゾディアック」をひらくといつもあらたなおどろきがあります。
2014年の春、修道院にアンジェリコさんをたずねました。お話のなかで、印象にのこった言葉があります。「ロマネスクの建築、美術には、意味が理解できないものもあるけれど、かならず意図があってつくられているはずです。私たちが思いだせないだけなのです」「ロマネスク美術には、モダンアートや西洋以外の美術との共通性があります。それは、人間にじかに語りかけようとする美術であることです」