山茶碗が好きで、かつて『工芸青花』で特集したことがあります。〈山茶碗とはなにか。やきもの事典等の説明をさらにかいつまんでいうと、「東海地方の中世窯で平安後期(11世紀後半)より生産された日常雑器。穴窯でかさね焼きされた無釉の碗で、口径15糎、高さ5、6糎ほど。生産者は兼業(半農半陶)ではなく専従の小集団か。山茶碗の名は窯址のある山麓で陶片が出土することから。行基焼、藤四郎焼とも」〉(『工芸青花』11号)。おもな窯址(群)に猿投、瀬戸、美濃、常滑、渥美などがあります。
その特集で、自身の蔵品紹介とともに、説得力ある山茶碗論を書いてくれたのが骨董商の清水喜守さんでした(清水さんはロンドン大学で修士号を取得、修士論文のテーマが山茶碗でした)。つまり彼は山茶碗にかんしてプロ中のプロなのですが、その清水さんが期待をよせる現代の山茶碗作家がいます。木村達哉さんです。
今展は、清水さんがあつめた古作の山茶碗と、木村さんによる新作の山茶碗をならべて展示販売します。初日夜には、山茶碗にみせられたふたりの対談も予定しています。
会期|2024年1月26日(金)−30日(火)
*1月26日は青花会員と御同伴者1名のみ
時間|13時−20時
会場|工芸青花
東京都新宿区横寺町31 一水寮(神楽坂)
出品|清水喜守(古美術28)
木村達哉(陶芸家)
講座|木村達哉+清水喜守|山茶碗の魅力
日時|1月26日(金)18時−20時
会場|悠庵
東京都新宿区横寺町31 一水寮(神楽坂)
https://store.kogei-seika.jp/products/lecture-kogei-73
清水喜守 SHIMIZU Yoshimori
1983年岐阜県に生まれる。骨董好きの父に連れられ9歳頃から骨董店、美術館巡りが始まる。初めて触れた骨董は父が持ち帰った古備前の壺。六古窯から骨董に入る。その頃に山茶碗に出会う。中学からイギリス留学をし、ボーディングスクール卒業後、オークション会社サザビーズ、大英博物館などのコースを終了した後にSOAS(ロンドン大学)にて修士号を取得。修士論文は「山茶碗の用途についての考察」。帰国後数年して「古美術28」をオープンする。
今展によせて 清水喜守
木村達哉さんとの出会いは自分の中で眠りつつあった山茶碗への情熱を復活させてくれました。古きに学ぶという姿勢は陶芸の世界では珍しくありません。しかし倣古でこの世界に爪痕を残すのは容易ではなく、消化しきれない古き良さを持て余す様をしばしば目にします。
平安時代の山茶碗と木村達哉作の山茶碗を並べた時に不思議と違和感が無いのです。それどころか調和すら感じるのは彼が純粋な好奇心から山茶碗のバックボーンを理解し、それを現代陶という形で表現できているからでしょう。山茶碗の魅力を理解する鍵は彼の眼に見えているそのバックボーンにあるのではないでしょうか。
今回は彼の山茶碗と私が選んだ12~13世紀の山茶碗を同じ空間に並べます。久しぶりに山茶碗と向き合いますので魅力のある品々を全力で集めました。時代を超えた山茶碗達の化学反応を楽しんでいただけたらと思います。
木村達哉 KIMURA Tatsuya
1998年。愛知県稲沢市生まれ。2018年、愛知県立芸術大学陶磁専攻入学。2019年、グループ展参加。2020年、Hase(名古屋)にて初個展。2022年、愛知県立芸術大学陶磁専攻卒業。
今展によせて 木村達哉
はじめて山茶碗を見たときは、あまりにもなんともない器でその良さに気づけませんでした。ただ、土と人の関係のバランスの気持ちのいいところを焼き物で探る中で、自然と山茶碗に惹かれていきました。
量産雑器。それぞれの産地の土という原料を用いて、量産ゆえに最低限の人の作為で作られたであろう器。だからこその絶妙なバランス。その中でも地域によって、時代によって、土や作り手によって形が変わってくる山茶碗。同じ寸法で作られたプロダクトでありながら一つ一つに特徴があり、無釉(釉薬がかかっていない)ゆえに当時の人の手跡もハッキリと残る。山茶碗という器はまだまだわからないことが多いですが、いろんなヒントを与えてくれているように思います。
今作る山茶碗とは? “使う”という面において、自然釉がしっかりかかった天場というものが山茶碗の中では良しとされているように思います。自分は日本各地で見つけた土や石を使用し、粒子を調整したり焼きを変えたりし、焼き締まりの良い、使える山茶碗として今に昇華できたらと思っています。
そんな大好きな山茶碗を古美術28の清水喜守さんと展示できる事を大変光栄に思います。当時の山茶碗と僕が解釈した山茶碗が並ぶのは恐ろしさすら感じますが、“今”だからこそ、今と昔の山茶碗を通して原料や人、やきものの営みという、器の奥の見えないものにも思いを馳せていただけたら嬉しく思います。