青花とは染付(blue-and-white porcelain)のこと。昨秋は12人の会員の方々にお願いして、「工芸と白」「工芸と青」展を開催しました。今年は「白と青」展です。監修は森岡書店の森岡督行さん(青花会員)。「暮し」と「思い出」という視点から、服と工芸をかさねあわせて考える、という展示です。
会期|11月29・30・12月1・2日(木金土日)
12月6・7・8・9日(木金土日)
*11月29日は青花会員と御同伴者のみ
時間|13-19時
会場|工芸青花
東京都新宿区横寺町31-13 一水寮101(神楽坂)
監修|森岡督行(書店主)
出品|AIR ROOM PRODUCTS CHICU+CHICU5/31
Coci la elle C.Shetland hasuike humoresque
Jurgen Lehl / Babaghuri KAPITAL
minä perhonen Sa-Rah TALK TO ME
協力|田中優佳子 堤純一 柳澤智子
森岡服店 森岡督行
『「生活工芸」の時代』(新潮社)のなかで、桃居の広瀬一郎さんは、「工芸30年」説を展開されました。それは、工芸の潮流を辿ると、30年周期で区切りがあるという見解。広瀬さんによれば、次の節目は2020年に訪れます。図らずも、元号が代わり、東京オリンピックも開催され、確かに何かが変わる予感がします。明治大正昭和それぞれのイメージが違うように。「生活工芸」は1990年代に端を発し、今日、たくさんの人々に親しまれています。それが今後どのように変化するというのでしょうか。
そもそも「生活工芸」という言葉はいまだ流動的です。作家の手仕事によるもの。それでいて作家の個性が弱いかたち。シンプル。ふつうの住宅で実際に使うことを想定している。それゆえ、ふつうの暮らしの空間と時間を豊かにする。比較的安価。「大きな物語」をあえて持たない。美術と境のない関係。心にも作用する。これらが「生活工芸」の特徴としてあげられます。ここ20年来、「生活工芸」の展覧会は大変な人気を博し、作品は各家庭や部屋に迎え入れられました。
これを換言するとどうなるでしょうか。私は、「生活工芸」の逸品は各家庭や部屋に収蔵され、そこで、それぞれの経年変化が生じ、思い出が付されていると考えます。いわば、「ものを超えた存在」になっていると。もしかしたら作家と伴走する感覚もあるかもしれません。もし広瀬さんの工芸30年説が正しいとしたら、私は、ここに「生活工芸」の次があるような気がしています。つまり、現状の「生活工芸」にこの視点が加わり、「生活工芸」はあらたな30年を迎えると。
今回、白と青展を企画させていただくにあたり、私は、この観点をベースにしたいと考えました。自分の経験に即し、「ものを超えた存在」になりうる服を展示販売したいと思います。いってみれば、「森岡服店」の営業。もちろん、白と青が基調。服の販売を通して、上記の意見の是非もお聞きかせいただければ幸甚です。
出品者紹介 森岡督行
■ AIR ROOM PRODUCTS エアルームプロダクツ
「AIR ROOM PRODUCTS」のシャツは、少しだけ丈が短いような気がします。そのバランスがパンツを履いたときに特徴となって表れ、特に太めのパンツとの相性が良いと思います。生地が丈夫なのも嬉しく、どんどん洗っても型くずれしません。袖口に隠された赤のステッチが目印で、そこから、コミュニケーションが発生したことがありました。
■ KAPITAL キャピタル
「KAPITAL」の児島SOHOBOOKSを立ち上げるとき、本の選書を担当させていただきました。本を選ぶときに、スタッフの方々と、デニムのかたちのちょっとした違いを話したりしました。「KAPITAL」のデニムは10年以上履き続けています。デニム本来の経年変化が楽しめるのはもちろんですが、その風合いにあうような本の選択を考えたことや、本を搬入したときの思い出などが織り込まれ、経年優化の感があります。
■ Coci la elle コシラエル
ひがしちかさんが生地に絵を描いて作る日傘。プリント生地をランダムに裁断して縫製した雨傘。「Coci la elle」の傘は、ひとつとして同じものはなく、カンカン照りの日、雨の日をむしろ楽しくしてくれます。
■ Sa-Rah サラ
デザイナーの帽子千秋さんの『10の型紙で着回す毎日の服』の販売会を行ったのが、「Sa-Rah」のリネンのシャツを知ったきっかけでした。試着したとき、帽子さんが、「森岡さん、ちょっとサイズが小さいからやめた方がいいです」と言いました。売りが先行しがちな現場において帽子さんは誠実でした。大きいサイズを着てみるとリネンの張りが心地よく、凝りすぎていないデザインなのに細部に個性が光ります。
■ C.Shetland シードットシェットランド
白、ネイビー2種、グレーと4着持っているカシミアのセーター。「C.Shetland」は、実は商品名でブランド名ではありません。「一番大切なのは商品である」というデザイナー田中さんの思いから、ブランド名はなしにしているそうです。田中さんから「洗濯機でがんがん洗っていい」と聞いて驚きました。洗ったカシミアは、質のいい風合いになって好ましいものでした。カシミアのよさを感じるのは、ちょっと寒い日、Tシャツの上に重ねたとき。さらっと暖かく気持ちがいい。からだの一部のように愛用しています。
■ CHICU+CHICU5/31 ちくちくさんじゅういちぶんのご
「CHICU+CHICU5/31」を主宰する山中とみこさんは、49歳のときにブランドをスタートさせました。子育てなど社会的、経済的な経験を終えられてから洋服を作り始めた山中さん。ゆったりしているのに線の細さが感じられる着心地は、その人柄をそのまま反映しているようです。
■ TALK TO ME トークトゥミー
「御菓子丸」の杉山早陽子さんが着ていた青いジャケットが、池邉祥子さんが作る「TALK TO ME」との出合いでした。襟の部分のかたち、二重ガーゼのやわらかな生地のテクスチャーに池邉祥子さんの世界観が感じられました。来年はメンズのシャツができるそうなので、ぜひ着用したいと考えています。
■ hasuike ハスイケ
「hasuike」は石本丈尚さん・知美さんの夫婦の作家です。知美さんが作るデニムはとても履きやすく、テーパードの形が特徴的。今回は白、ネイビーのテーパードを7サイズ用意して、受注させていただきます。知美さんが長年履いているデニムも展示しますので、どんな風にデニムが育つのか触れにきてください。
■ minä perhonen ミナペルホネン
minä perhonenのテキスタイルには、名前がつけられていますが、私が履いているデニムの内側の生地は「マーメイド」。ものに名前がついていると、愛着が感じられ、何か特別なものになるような感覚があります。「マーメイド」の〈ウロコ〉の柄があてになって、デニムの色落ちにもなります。デニムの生地が薄いので、夏も履きやすいです。
■ humoresque ユーモレスク
木工デザイナーの三谷龍二さんとは、驚くほど、服装が似ます。シャツの色、パンツの素材、まるで事前に打ち合わせたように揃うことが多いのです。「細部の違いでものを選ぶようになった」とは三谷さんの言葉ですが、これはまさに、自分がユーモレスクを着る理由でもあります。このシャツに関しては、衿を立てたときのかたちや、素材の質、ステッチの線の細さがすごく好きです。着ていると細部への世界観が感じられます。もしすり切れたりしても補強しながらずっと使っていきたいですし、それが風合いになるのもたのしみです。そう考えると「humoresque」の服づくりは、三谷さんたちが提唱している「生活工芸」と近いのかもしれません。
■ Jurgen Lehl / Babaghuri ヨーガンレール / ババグーリ
ヨーガン・レールさんは、ペットボトル、洗剤の容器、漁網など石垣島の海岸に打ち寄せられたおびただしい数の海洋ゴミを拾って、照明に作りかえるというプロジェクトをされていました。コツコツとプラスチックに穴を開け、ヒモを通す。森岡書店でも、その照明を展示させていただいたことがありました。あのゴミが こんなに美しいものに変わるとは。ヨーガンレールやババグーリの服を着ていると、着心地やデザインの良さを感じることに加えて、ヨーガン・レールさんの考え方を思い出すときがあります。