このごろ、このNICが入っていた福岡ビルが大規模開発のため今年の3月に閉館することとなったのをきっかけとして、元社員の方々にお目にかかり、話をうかがう仕事をしています。そして多くの関係者から話を聞くにつれ、地方におけるデザイン史というのは、工芸が地場産業へと地続きで再編されてゆく歴史でもあることにあらためて気付かされます。たとえば福岡の中心市街を南北に貫く、やはりNICが担当した天神地下街。1976年開業という古い地下街でありながら、古さをいまだに感じさせないのは、壁面から天井を覆う唐草模様の壁面装飾の品位ゆえかと思います。そしてこの鋳造を行なったのは「エフキャスト」という鋳造会社です。なぜ福岡に鋳造会社があるか。それは芦屋釜に代表される筑前鋳物の流れが脈々と存在するから、です。NICは1974年以降、顧問でありKDC(九州デザインコミッティ)代表でもあった柏崎栄助の発案でPAK(Products Association in Kyushu・全九州産業工芸連合)展をはじめますが、それは九州全体の工芸・地場産業を再編する大きな運動となりました。地域の鋳造所がPAK、そしてデザインという概念によって新たな役割を与えられ、その活動の場を広げてゆく。いきなり変化が起こるのではなく、そこには前史があり、意志を伴う接続がある。NICがもっとも大きく変えたのは、地域の歴史そのものだったのでしょう。
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