去る7月5日から6日にかけての九州北部豪雨は福岡県東部から大分県西部にかけて、大きな被害をもたらしましたが、それは小石原・小鹿田といった同地域の窯業地においても例外ではありませんでした。土や釉薬を作るための唐臼と呼ばれる道具が流され、採土場が崩れるなど、復旧にはまだまだ時間と人手を要し、それぞれの地域において支援が求められています。ご協力いただけますと幸いです。

さて、被災状況の落ち着かぬなか、小石原焼チガイワ窯の福島善三氏が重要無形文化財の各個認定、いわゆる人間国宝とされました。氏の作品はトビカンナなどの小石原焼と聞いて一般的に想像される技法ではなく、むしろ宋・元代の鈞窯に着想を得た、鑑賞陶器の見目の良さを実用陶器の形に託す「美術工芸」の系譜を引くものと言えるでしょう。一方、山を越えた兄弟窯である小鹿田焼は、重要無形文化財については個人ではなく保持団体として認定されており、唐臼で蹴轆轤で共同窯で……と、その仕事ぶりはずっと変わらぬ風景であるかのように見做されています。ゆえに小鹿田は「一子相伝」の伝統的な産地であり、小石原は多様に変化した産地である。しばしばそんな対比がなされます。

でも、これ、本当でしょうか。そもそも工芸において「伝統」ってなんなのでしょうか。「伝統工芸」という言葉がありますし、小石原焼もその指定を受けていますが、指定、という言葉が示す通り、地域産業振興を目的として作られた新しい概念であり、「グッドデザイン」と同じ、ひとつのブランドです。とはいえ何か参考になるかと、昭和49年に公布された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に「伝統工芸」についてどう書いてあるか確認してみると、なんとも曖昧です。

一  主として日常生活の用に供されるものであること。
二  その製造過程の主要部分が手工業的であること。
三  伝統的な技術又は技法により製造されるものであること。
四  伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるものであること。
五  一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているものであること。

こう書いてありますが、それぞれを読んでいくと、「手工業的」とは風合いが変わらなければ機械を用いてもよく、伝統的な技術は変化を認め、原材料も無ければ近いものを使っても良い、などと留保が多く、とても厳密な定義とは言えません。もちろん、この法律は定義ではなく、経産省指定の参考となる考慮条件を列挙しているにすぎないのですから、別にケチをつけたいわけではありません。補助金行政の話をしたい訳でもありません。僕らは「伝統工芸」と「工芸における伝統」を勘違いしている、そして、ことほど左様に、伝統とは定義し得ないものであり、常に変わるものである、という話です。

*続きは以下より御購読ください(ここまでで記事全体の約半分です)
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=346






前の記事へ  次の記事へ
トップへ戻る ▲