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撮影=高木崇雄(以下同)
今年でちょうど10年目になりますが、当店では夏になると「ひとり問屋」日野明子さんの仕事を紹介する会を行なっています。日野さんは「消費者をやめて愛用者になろう」という言葉を残した工業デザイナー・秋岡芳夫氏のもとで学び、自ら「ひとり問屋」として各地の工房や工場を廻り、ものと人とをつなぐ仕事を続けている方です。日野さんのことを知ったのは、僕らが店をはじめてすぐ、東京・湯島の老舗硝子店「木村硝子店」の木村社長にご紹介いただいたことがきっかけです。社長は、あとさき考えず、つい店をはじめてしまった僕らをいたく心配してくれて、日野さんって人が問屋をやっててね、頼んだら何でも揃えてくれるから、と紹介してくれたのです。幸か不幸か、日野さんに誰かのものを卸してもらう、という機会はしばらく来なかったのですが、その後も木村硝子店の方々からは、ことあるごとに日野さんの話を聞いていたので、だんだんと日野さんという人自体に興味がわいてきました。日野さんはどんな「問屋」なんだろう、そもそも「問屋」ってなんだろう、と。そんな時、日野さんが店をふと訪ねてくれたことをきっかけに、日野さんの仕事を紹介する会をはじめました。最初のテーマは「ごはん」。米を食べることに関わるものであればなんでも、茶碗や箸からしゃもじやおひつ、釜、たわしなどに至る、多様な素材・仕事が揃う会でした。その時日野さんが書いてくれたのが次の文章です。
〈仕事をしながらつねづね考えることは「作り手はすごい」ということですが、さらに「売り手もすごい」と思っています。わたしは「作り手と売り手をつなぐ」仕事をしており、それはそれで意義があることなのですが、「お店を構えて、使う人に直接、伝える」という「売り手」はわたしの仕事に比べると何十倍もパワーのいる仕事だと思うのです。なので今回、このような企画を立てていただき、正直言いまして「問屋は脇役であれ」という自分の趣旨には反するのですが、信頼する工藝風向の高木さんからのお声がけ......というのは光栄なことなのでお受けしました。いつもはこれらの品を、バラバラな店に細かく卸しています。それぞれの店で、同じ品が違った顔で見えるのがとても面白いです。こんなにたくさんの種類を一つの店に送ったことはありません。それぞれの品が、工藝風向さんで、違った見え方をするのが楽しみです〉
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