阿蘇に住み狩猟を行う叔父さんに影響を受けた春山さんは、同時にまた写真家・星野道夫氏の写真と文章に惹かれ、同志社大学を卒業後、星野氏の歩みと同じアラスカ大学フェアバンクス校・野生動物管理学部に入学。さらに星野氏と同じようにシュシュマリフ村に手紙を書き、1ヶ月ほど滞在し、その後は100人程度のアラスカ先住民が住む小さな村・デーリング村に滞在していました。村では氷が緩む初夏から夏にかけて、真白な狩装束を着て、船でアザラシ狩りに行くのですが、船には最先端のGPS装置が付いている。同行した春山さんが、海上を自由に動き回り、狩りを行う彼らにGPSなど必要なんだろうか、と思い、率直にその旨を尋ねたところ、60才を過ぎた猟師の返答は次のような言葉だったそうです。
ブリザードが吹いてもGPSがあれば必ず家に戻ることができる。GPSは宇宙の、星の視点で自分の場所を知ることができる道具なんだよ、と。
実際、ブリザードで周りが真っ白になった海上で、船に入ってくる水をバケツで必死に汲み出す春山さんが、我々はGPSだとここにいるはずだからあと30分頑張れ、と言われたことを含め、春山さん自身も少なくとも2度はGPSのおかげで助かったといいます。ただ、だからといってGPSは素晴らしい、近代科学技術万歳、という話ではありません。今日はあの種類の鳥があの場所に集まっているから海が荒れる、この雲が出る日はこの時間帯に空模様がこうなる、といった体験に基づく知恵、狩猟にまつわるさまざまな経験知は軽んじることなく世代間で受け継ぎながらも、視点を広げる道具は遠慮なく使う。そこに一切の仕切りは無く、この視野の広さこそが彼らの海上での歩みをより自由にする。彼らのそんな姿勢が、自然と人間、デジタルとアナログといった区分をつけることの無意味さを春山さんに教えてくれた、ということです。その後日本に戻り、雑誌「風の旅人」編集部で働いていた春山さんは、スマートフォンの登場と、そこに含まれているGPSの存在に気がついた時、あらためて命を守る道具としてのスマートフォンの可能性を知り、YAMAPの構想を得ました。
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