平成7年(1995年)ですから、今からもう四半世紀前の話です。青山学院大学の脇に「土の花」と云う、新作陶器を並べたモダンなお店がありました。店主は戸田順子さん、ご主人はアートディレクターの戸田正寿さん。私を広告業界に導いてくれた、10代からの知り合い(恩人)です。そんな縁で、店主の順子さんは栗八で毎月行なっている句会にも参加していました。指導は「澤」の小澤實さん、こちらは私の骨董屋歴より長い付き合いで、句会も長く続けていますが、そのお話はいずれまた……。

「古民藝展」に話を戻します。句会を終えてのいつもの雑談で、「今度、どこかで展示会をやろうと思う」と、仕入れを続けていた古民藝の展示会について話題にしました。しばらく後に、順子さんが訪ねてきて、「その展示会、土の花の2階を使ってやってもらえないか……」とのこと。場所も良く、広さも充分で、こちらには願ってもない提案なのですが、2階は戸田夫妻の住まいでもあり、広いリビングには大きなソファやテーブルもあります。訊くと「前から何か展示会に使えないかと思っていたが、なかなかキッカケが摑めなかった。民藝展の話が出てきたので思い切って……」と云うお話。奥には物置や、ほとんど使わぬ部屋もあるので、家具類はそこに仕舞えるだろうとのこと、さらに、展示に必要な棚も「この際だから作りたい」と……。こうしてトントン拍子に話は進み、その年(1995年)の7月、3日間の「古民藝展」開催が決まりました。

会場となったリビングには、特注の大きなテーブルが2つ置かれ、L字の壁際には、これもまた今日のために作ってくれた棚が並べられました。それらに、大小様々な古民藝が100点余、ズラリと飾られた様子は圧巻でしたが、果たしてこの煤けた品を喜んでくれるお客さんがいるのかどうか……。内心は不安だらけでしたが、今日までの慣れぬ作業で心身共にフラフラですから、不安を噛み締めている余裕もなく、早々に寝床につきました。

当日は、夜明け前の電話で起こされました。何事かと受話器を取ると、「戸田です。外にもう人が並んでいて、展示会に来られた方なのでは……」とのこと。まだ6時になったばかりです。開場までには時間もあります。並んでいるお客さんに整理券(順番札)でもお渡しして、一度引き上げてもらわなければ、狭い道端で開場時間まで待ってもらっては気の毒です。

あわてて整理券を作り、早朝の「土の花」に向かいました。十数名のお客さまが確かにいます。嬉しいやら、恥ずかしいやらですが、私に気づいた皆さまが一様に「おー、きたきた」と云った笑顔です。「整理券を作ってきました」と告げると、ほっとした様子で皆さん受け取り、その場を離れていきました。残った整理券を小箱に入れて、入り口の壁に貼り、私は一度、栗八へ戻ってきました。

長くなりそうです。続きは次回に。


「古民藝展」案内状

平成8年の第2回から最終7回までの「古民藝展」案内状です。フォーマットはまったく一緒で、載せている品だけが毎年変わっています。「古民藝展」の書体は、欧陽詢「九成宮醴泉銘」からエレメントを選んでの作字です。民藝とはひと味違うニュアンスが気に入っています。

尚、第1回の案内状が手元には残っていません。1回限りと思っての展示会で、印刷部数も少なく、使い切ってしまったのでしょう。案内状に何を載せたのか、まったく覚えていませんので、見てみたい気もします。

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