■はじめに
骨董蒐集初心者にとって、ヤフオクほど便利な場はありません。真贋、優劣にかかわらず、あらゆるジャンルの骨董が出品されていますので、知識を得られ、購入の経験もできます。数千円で買える品もありますから、懐具合が淋しい時でもそれなりに楽しめます。骨董と云う、ある意味、難解な世界に、どなたでも気軽に触れられるヤフオクという存在は、蒐集家には間違いなく大きな恩恵となっています。

しかし、初心者の方がヤフオクに対して漠然と感じるであろう「コワイ……」と云うイメージも、間違っていません。ヤフオクのコワサの第一は、相手が見えないことでしょう。相手が見えませんので、写真と解説、自己紹介や、評価内容だけが頼りです。古美術売買に限らず、ですが、商いはすべて信用の上で成り立っていますので、売買では何よりも信用を第一に考えます。ところがヤフオクの場合は、匿名(ID)での出品ですから、極端に云えば粗悪品やニセモノを売り逃げすることも可能です。また、どのような方でも出品できますから、骨董の知識や経験の少ない方も出品しています。逆に、知識もあり経験もある方が確信犯的に素人を装って売ることも可能です。初心者には手軽な骨董入門の場でもあるヤフオクですが、危険な落とし穴が多いのも事実です。

それでも尚、ヤフオクは骨董蒐集の身近な場としてお奨めできます。時間と空間の制約がなく、すべてに価格が明示され、誰でもかんたんに購入(入札)でき、懐具合に合わせた品選びが可能な、我が国最大の骨董市場(売り場)がヤフオクです。「ヤフオクは便利でかんたん、見るのも楽しい。でも骨董品の入札となると、何だかコワイ……」と思って入り口で躊躇っている方や、買ってみたけど、届いた品が大失敗でもう懲り懲り、と云う方もおありでしょう。ヤフオクで、うれしい買いもの(落札)をする秘訣(コツ)があります。

ヤフオクに骨董(アンティーク)分野が定着した初期より、長い年月にわたって売買ともに参加してきた栗八にお任せください。私の言うことを聞いた上でヤフオクに参加(入札)してもらえれば、しかも青花ネットのファンの方なら、まちがいなく成功します! このノウハウ、YouTubeに上げればバズったかなー。(笑)

■その1 君子危うきに近寄らず
ヤフオクでは、様々な品が毎日のように出品されていますので、骨董に熱中し始めた頃は、気になる品も多いと思います。そこで、まずは、「入札する品は、素性のわかる出品者から」と決めた方が無難です。と云うより、決めてください。自己紹介欄にきちんと名前(店名や所在地)を明記している、骨董を専門に扱う出品者の品にのみ入札することをお薦めします。自己紹介欄に何も書いていない、素性の見えぬ出品者への入札は、ヤフオクに十分慣れてからにしましょう。これで、少しは数が絞られましたね。自己紹介欄のしっかりしている出品者の中からお気に入りを見つけ、安心して入札……と云う前に、まだ注意点があります。

掲載写真と解説だけで真贋や疵の有無の判る品なら良いのですが、骨董の場合は一筋縄にはいきません。プロの私が見ても、写真や解説では判断に迷う品がヤフオクには溢れています。例えば桃山古陶(美濃や唐津)の伝世品、初期伊万里や李朝の染付、信楽などの中世古窯、時代の懸仏、金銅仏、勾玉等の考古美術と、数え上げたら切りのないほど、あらゆるジャンルに“あきらかな偽物”も“判断に迷う品”もあります。

「良さそうだけど、ホンモノかどうか……」と迷った時の判断材料のひとつが、その出品者の他の商品を見ることです。同時に出品している品が、あなた自身の眼で判断して「どれも良さそう……」と感じたのであれば、まず間違いありません。あとは買える(買いたい)範囲まで、思い切って入札して良いでしょう。その逆に「あれっ」と、あなたが見ても怪しげな品が混じっていた場合は、あなたが選んだ品が「良さそう」でも、入札は控えてください。そのような出品者から落札した品は、届いたら「ガッカリ」の場合が多いものです。

■その2 安い価格に惑わされない
栗八(kurihati88)もそうですが、ヤフオクのスタート価格は、高価な品でも入札されやすいよう、大概の出品者が安く設定しています。中には1円からと言う極端な例さえあります。そのような安い価格に惑わされないことも大切です。現在表示されている価格は途中経過で、ほとんどの品は締め切り間際に入札が集中しますので、「安いから」はあまりあてにはなりません。まずは品物の写真と解説をしっかりと見て、好みの品を探してください。好みの品の中から買えそうな価格の品が見つかったら、とりあえずウオッチリスト(☆印)に登録です。

次は、ウオッチリスト(☆)に登録した品から、もう一度セレクトします。先の、素性のわかる出品者かどうか、他の商品も安心の範囲かどうか、ですね。これで、ある程度数が絞られたことと思います。あとは締め切り時間内に、欲しい品に、購入希望価格まで入札すれば完了なのですが、実はここからが、ヤフオク成功の秘訣なのです。

■その3 入札
数万円はしそうな好みの品が、まだ数千円。「こんな値段なら欲しい」と入札しても、すぐに高値更新されてしまいます。この状況は、締め切り間際に顕著です。しかし高値更新されたとは云え、まだ安いものです。ご自身が「こんな値段なら……」と思っての入札ですから、入札金額も安いものでしょう。高値更新も当然ですね。「それはそうだろう」とまた入札します。それでもまだ安めの金額でしょうから、きっとまたすぐに高値更新されます。

ヤフオクの優れた(やっかいな)システムに“自動延長機能”があります。締め切り間際に入札が入ると、自動的に締め切りが5分間延びます。あなたが締め切り間際に入札し、「最高入札者」と表示されても、締め切りが5分間延びていますので、その数分後にそれを上回る入札があれば高値更新されてしまいます。「安く買えた」と思っていた品が、数千円の差で誰かに買われてしまいます。ここで諦められれば苦労はないのですが、「安いから欲しい……」と思って入札したのに「買えない(負けた)」となると、「買いたい(勝ちたい)」へと気持ちが変化します。この辺の心理状態の説明は私には難しいのですが、ヤフオク経験者なら共感していただけると思います。で、再入札、高値更新、再入札と、顔の見えぬ相手との入札バトルに突入してしまえば、勝者となっても結果「高い買いもの」となってしまいがちで、素直には喜べませんね。

ヤフオクが定着する以前は、そんな憤懣をかかえた入札者が、「サクラ入札者のせいで高くなった……」と、顔の見えぬバトルの相手に対して筋違いの批判をしたことが多々ありました。要は、ご自身と同じように思って入札を繰り返していた、もう一人のお相手がいたと云うだけのことなのですが、相手の見えぬヤフオクだけに疑心暗鬼になりがちですね。

ヤフオクでは現在、商品それぞれに、ウオッチリスト(☆)の登録者数が表記されますので、人気の高い(登録者数の多い)品は、それだけ入札バトルも過熱することが予想できます。参考にしてください。

■その4 秘訣
ウオッチリストに登録した、素性のわかる出品者の品から、さらに厳選し、ご自身が入札する品を慎重に選びます。写真だけでなく、商品解説も良く読んでください。良い出品者は写真も解説も判りやすく丁寧なものです。

いよいよ入札ですが、先に書いた様に、自動延長による延々バトルは避けなければいけません。唯一無二の、何が何でも欲しい品なら別ですが、そうでなければ入札は3回までにしてください。1回目の入札は、締め切り1時間くらい前までが理想です。

1回目は「これで買えたらうれしい……」と云う、表示されている値より少し高めの金額で良いでしょう。たぶん、自動入札システムでそれ以上の金額が提示され、入札できないか、入札できても間もなく(締め切り前30分以内に)高値更新されるでしょう。

2回目です。表示されている値にかかわらず、「この品なら、ここまで出しても欲しい……」と云う金額をご自身で決めて、入札してみてください。これで、最高入札者として落札まで行ってくれれば良いのですが、たいがいは締め切り間際に高値更新されるか、それ以前に自動入札で高値更新されてしまいます。ここで諦められれば良いのですが、数あるヤフオクの品の中からやっと選んだ「好きだし、欲しい……」品ですから、数千円の差で買えないのは寂しすぎますね。

いよいよ3回目です。運良く買えるかどうかのラストチャンスです。たぶん2回目までの入札は、「安ければ……」の思いをどこかに残した入札額だったことでしょう。高値更新されても「やっぱり欲しい」と思ったなら、3回目は「ここまでで、欲しい」ではなく「ここまでなら、欲しい」と云う、ちょっと気張った金額を冷静に決めて、その額で入札してください。それでも高値更新されたなら、あなた以上に熱心にその品を望む相手がいる証拠ですので、潔く諦めてください。好みの品を見つけた出品者なら、次もまた、かならず好みの品が登場するはずです。3回目で運好く最高入札者となった場合は、締め切り時間が過ぎるまで、ネット(ヤフオク)を閉じて過ごしてください。途中経過が気になるでしょうが、じっと我慢です。

この3回入札方法、最初のうちは成功(落札)率も低いでしょうが、諦めずに続けてください。訓練(?)を積めば必ず買える(落札できる)ようになります。確率は10点に1点かも知れませんが、その1点は、あなたにとって確実にうれしい買いもの(安かった落札品)になります。

3回入札方法を実践されると、kurihati88もそうですが、低価格スタートで売り切る出品者にとっては、買値(入札)にシビアな、非常に手ごわい相手になります。(汗)


新羅小金銅仏如来立像 統一新羅時代(7-8世紀) 高12cm

新羅仏と呼ばれる小金銅仏で、統一新羅でも比較的初期の1体です。現存する新羅仏の多くは発掘品です。そのため表面の鍍金が剥げ落ち、あるいは腐食による劣化が進み、顔や体軀に大きな損傷が生じている場合が多いものです。掲出の1体は小像ですが見事な鍍金が残り、腐食による劣化もほとんどありません。こうなるとまるで贋作の様ですね。鍍金の良く残る、作、状態の良い新羅仏は当然ですが高価なので、巧妙な贋作も数多く流通しています。それらと、この小金銅仏の違いは何なのか……。正真(ホンモノ)とする根拠は……と、小金銅仏を欲しいと思っている蒐集家の方は様々問うてみたいことでしょう。応えはシンプルです。「ホンモノと判ってから買えばよい」のです。「ホンモノかどうか……」と迷っているうちは蒐集(購入)を思いとどまるべきです。焦る必要はありません。小金銅仏に限らず、多くの蒐集家を魅了し続ける市場性を持つ骨董品が、市場から姿を消すことはありません。その様な品は、かつても今も希少であり、貴重であり続けていますから、確固とした市場性が築かれています。いずれその時(判る時)が来れば、再びあなたの目の前に登場し、あなたにも必ず蒐集のチャンスが訪れます。それは数年先か、十数年先か……。その時に備えて、今の蒐集を楽しみ、充実させてください。

P.S. 青花の会骨董祭の小冊子に載った対談で、後輩骨董商が「偽物(の様)に見える本物が好き……」と云う発言をしていて驚きました。偽物に見えるほどの本物は、当然に予想を超えて高価でしょう。また理解者も少なく、買うとなれば身を切る出費となるはずです。自身の眼への確かな信頼と経験(手応え)がなければ言えぬ頼もしい言葉なのです。「偽物の様な値で本物を掘り出したい……」と云った浅ましい魂胆の発言ではないことを、老婆心ながらお伝えしておきます。





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