ネットオークションに出品された「1枚の皿」、正式な名は「初期伊万里染付吹墨兎文中皿」です。モノが正しければ……。

パソコンの普及と共に急激にファンを獲得していたネットオークションに、初期伊万里の名品が出品されたのですから、当然に競りは過熱しました。ノークレーム、ノーリターンの皿が、最終的には百数十万円。吹墨皿なら数百万円を超えた売買もありましたので、当時としては安い買い物であったかも知れません。モノが正しければ……。

それからの展開は急なものでした。間もなく別の出品者から「初期伊万里染付吹墨鷺図中皿」が、また別の出品者からは……と続きました。こうなると、流石に落札者も警戒を始めます。が、半信半疑、「もしホンモノなら……」の想いは、そう簡単に捨て切れるものではありません。値を下げ始めたとは云え、高値での落札が続いていました。

そんなある日、私たちの主催する市場に1枚の藍九谷中皿が出てきました。状態の良い、比較的初期の1枚です。私の扱う「くらわんか手」とは違い、高価な皿で、傷がなければ市場でも40〜50万円で売買されていたものです。自身が主催する市場なので、発句(最初に掛ける競り値)は、多くを私が担当していました。件の皿が競り台に載せられ、私の発句は「10万円!」、続く競り声はなく、数秒後、皿は10万円で私の手に落ちました。伊万里や鑑賞陶磁を専門とする業者も多く参加していますので、件の皿の真偽について訊ねることはできたのですが、しませんでした。もう、その必要もありませんでした。

やがてネットオークションにも、初期伊万里に続き、藍九谷や柿右衛門手の名品(モノが正しければ……)が目につく様になってきました。「関西の某が……」「あれは中国で……」等、様々な憶測が飛び交いましたが、真偽はすべて藪の中です。

現在の古伊万里価格の凋落は、すでに皆さんもご存じでしょう。「悪貨は良貨を駆逐する」。骨董の売買も信用の上に成り立っています。悪意への抵抗力は、悲しいほど脆いものです。


越前小壺 鎌倉時代 高8.5cm
ローマングラス面取小瓶 3-7世紀 高9cm

「越前小壺」は姿、景色共に良く、鎌倉時代としては最小と思われるかわいい寸法です。「ローマングラス」は銀化の美しい、優雅な面取り瓶で、驚くほどの軽さです。2点は、それぞれ目利きとして定評のある若き骨董商より求めたものです。けっして安くはなかったのですが、野花を添えてみたら……の誘惑に負けました。実を云えば、買ってからまだ花を挿したことはなく、久しぶりに箱から取り出した次第です。「花を……」の想いは、商いとしてはいささか難儀だった購入を、自分自身に納得させるための暗示(自己弁護)みたいなものだったのでしょう。

40代でデザイナーから骨董商に転じてからは、自身のために骨董を所蔵(コレクション)すると云う意識はありませんでしたし、してきませんでした。大きさのある木彫仏や仏画等、店に置く場所がなく、結果として長く持っていた品はありますが、それらも今は手放し、手もとにはありません。身近に残っているものは、普段使いの古陶(皿、鉢、碗類)と、季節に合わせて掛け替える、仙厓さんを中心とした古画軸や額、野花の似合う器くらいです。「それこそが、コレクション」と言われてしまうと返す言葉がないのですが、まあ一部の例外を除けば、あまり高いものはありません。「コレクションとはそう云うものだ」とまた突っ込まれますね。「ハイ、すいませんでした」。好みの骨董を慈しみ、大いに楽しんでいる私も立派なコレクターでした。

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