こんにちはー。骨董通販サイト「seikanet」が始まりました。栗八も出品させていただいています。ぜひアクセスしてみてください。
さて、「seikanet」のスタートと同時に掲載を始めた骨董入門コラムの3回目です。これから古美術骨董を買ってみたいと思われている方、難しそうで……と入口でためらわれている方にご一読いただければうれしいです。
■何を買ったら良いのか分からない
「骨董に興味はあるけど、何を買えば良いのか分からない……」。そう思われて入口でためらっておられる方も多いのではないでしょうか。何を買えば良いのかが分かってしまえば何も買わなくても済むのが骨董の蒐集かも知れません。骨董を買うとは自分を買うこと、そんな意味の言葉を残された著名な蒐集家がいました。骨董の蒐集とは自分探しの道のりなのかも知れないと私も思います。
古美術を蒐集されている方のお宅へ伺うと、玄関先に花があったり、小さな額に可愛い絵が飾られていたりします。その方の古美術に対する情熱や愛情が伝わり、私の店先の物置然とした雑然さを反省し頭の下がる思いになります。初心者のうちは古美術骨董と云うと、何か特別な品(お宝)と云った感覚を知らぬ間に持たれてしまうと思いますが、古美術骨董と呼ばれるもののほとんどが、本来は当時の生活の器であり道具ですから、何も特別な品(お宝)と云ったものではありません。ご自身が気になる品や魅力を感じられた品を購入可能な範囲で買っていただければ、それで十分なのですが、購入可能な範囲と云われてもピンとこないものでしょう。
■いくらで買ったら良いのか分からない
骨董の価格や価値については、蒐集を始めたばかりの方には実に説明が難しい事柄です。身近な例を挙げます。オークションや私達業者が市場で仕入れをする場合も同様で、その場で一番の高値を付けた人のみが購入できます。つまり誰よりも高い値を付けたから買えた訳です。では「高い買いもの」かと云うと案外そうでもありません。
私たち業者の市場の場合です。古美術を専門に扱う業者でも、それぞれに得意な分野があります。自分の専門とする分野にはお客様もいますので、そのような方に買ってもらえそうな品であれば、ある程度までの購入は可能です。しかし、お客様を持たぬ分野違いの品では、安いと思って仕入れても、それを買ってくださる方がいなければ、安い価格そのものが成立しない結果になりがちです。
例えば、私などは市場で鍋島や柿右衛門の器が数十万、数百万円ときくと、「あの品に、そんなお金を出すのなら……」と、つい思ってしまいます。また逆に、私が仕入れる発掘の割れた壺や古陶等はそれらを扱う方から見れば「あんなものにお金を出して……」と思われているのではないでしょうか。
そのように、同じように古美術骨董を扱う業者でさえ、品物一点一点に感じる価値観も値ごろ感(値踏み)も違います。人気のテレビ番組「なんでも鑑定団」のオープン・ザ・プライスなど私はほとんど的中したことがありません。
長くなりました。初めての方は「いくらで買ったら適正なのか……」などは気になさらずに、まずは、値札や値段のことは無視して気に入る品を探してみてください。その上で値段を確かめてみてください。その品があなたの買えぬほど高価であったとしても、何も落ち込む必要はありません。それは何の知識が無くとも、それだけ価値のある品を良いと感じる感性を生まれもって具えている証拠ですから……。
価格が購入可能な金額でしたら、どうか、思い切って買ってみてください。予備知識も無く何も分からぬままの購入でしたら、「何も分からず気に入って買うのですが、どう云うものか教えてください」と勇気を出して尋ねてください。多くの業者は感激し、その品について教えてくれると思います。
■持っていれば価値が出る
「骨董は年々少なくなるから、大事に持っていれば価値が上がるよー」と調子の良いことを言う業者がいるかもしれません(今時、いないかー)。半分はホントで、半分はウソです。私の専門に扱う考古土器や須恵器などは、今も大概の品が30年前と変わらぬ価格と思います。子供の頃に読み捨てていた漫画『鉄腕アトム』や『鉄人28号』の方が、値上がり率では比較にならぬほど高いでしょう。
昨今の「骨董=お宝」の風潮はどこかに大穴狙いを夢見るようなところがあり、どうにも困った現象と思います。古美術や骨董を蒐集すると云うのは、前に書かせていただいたとおり、お気に入りの洋服や趣味のゴルフを楽しむことと同じです。「10年後には値上がりしそう……」とお気に入りの洋服を買われる方はいないと思います。また「将来はプロになって元を取る……」と思ってゴルフを楽しまれる方も少ないのではないでしょうか。
お気に入りの器に料理を盛り、茶を飲む、酒を酌む。食卓や接客に気軽に贅沢に使う古美術骨董。部屋の片隅に摘んで来た野花を置く。季節毎、壁に小さな絵を架け替える。日常の暮らしの空間を居心地の良い贅沢な場としてくれるのが、実は古美術や骨董品の最大の効果です。
資産価値を目的として、何の知識も持たぬまま古美術や骨董の購入(蒐集)を考えている方は、どうか違う分野へそのお金を投資してください。実際、古美術商の9割以上が同年代の会社員に比べ所得は低いと思います。そのことからも古美術や骨董が如何に利殖に向かぬ分野であるかお分かりいただけるものと思います。
■騙されるのはイヤだ
「騙されるのはイヤだ……」、同感です。毎日のように古美術骨董を扱う私も何時もそう思っています。贋物を買ってしまうことは経済的にも打撃ですが、それ以上に何とも情けない気持になってしばらくは落ち込みます。騙す方が悪いのか騙される方が悪いのか……と言ってみたところで問題の解決にはならないのですが、古美術品に贋作はツキモノです。
知識が無いせいで贋物を買わされたら困る……と思われてしまう初心者の方も多いでしょう。実は贋物はある程度の知識を持った人達を対象に作られている場合がほとんどです。贋作は「こんな処に、こんな品が……」と、それなりの知識を持つ人の掘り出し意欲を刺激する舞台設定で大概は現われます。
ブランド物の洋服や品を何処で買えば安心か……。古美術骨董を購入される場合もそれと同じ目線で始めていただければ良いと思います。真摯な蒐集の前には不思議と贋物は登場してこないものです。どうか、ご安心ください。
次回からはいよいよ目利きへの第一歩、具体的な実践編です。
上・下|古染付雁木文小鉢 明時代末−清時代初 高9cm 京都書院刊『古染付』所載
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高い高台をもつ小鉢で、外側はゆるく面取りがされており、各面は呉須のラインで区切られ、上下に文様が配されています。雁木(がんぎ)の名称は区切られた面取り意匠が雁木の如く、とつけられた愛称かも知れません。雪国では、軒の連なる街中の道に沿う一階屋根の庇を長くせり出させてつなげ、雪の積もらぬ通路としています。それも雁木と呼ばれています。小鉢の見込みにはかわいい小花が一枝、雪国育ちの私には待ち遠しかった春を告げる花のように見えます。
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