骨董蒐集にはお金がかかります。ネットや催事だと、売り手にそうワガママも言えないのですが、親しくなった骨董店との付き合いとなると……つい無理をお願いしたくもなります。骨董店との良い関係が築けてこそ、良品蒐集も可能になり、最小の労力と資金で最大の効果をあげることも夢ではなくなりますが、お金に絡むデリケートな事がらは、蒐集家にも初心者にもなかなかに悩ましい問題ですね。前回に引き続き、そんな悩める皆さんへ、解決方法の提案です。今回は骨董店と付き合う中で生まれる借金(分割払い)のお話です。

■借金(分割払い)
青花ネットやヤフオク、催事等で骨董品を買う場合は、現金(カード)での一括払いが基本ですから何も問題はないのですが、骨董に親しむようになり、骨董屋さんとの親しいお付き合いも始まると、月賦や分割払いと云う選択肢が生まれてきます。

蒐集初心者の方には、すぐにはピンとこないかも知れませんが、骨董に親しんで数年もすると、眼の利く方ならご自身の小遣い(毎月使える範囲)を超えた高額な品にまで眼が届くようになります。いよいよ次のステップへの突入ですね。好みを知ってもらえたお店で、親しくなった店主から「こんなモノを買ってきた……」と見せられる品は、あなたが欲しいと願っていた品だったりするのですが、それは毎月の支払い範囲では無理な場合が出てきます。

さあ、困りました。欲しいけれど手持ちの予算では買えません。泣く泣く諦めますか……ここで諦められるようならあなたには縁のない品です。「お金が足りない。けれど、どうしても欲しい……」こうなるとあなたの骨董熱もいよいよホンモノです。迷っているあなたへ、「何なら、月賦でも良いですよ」と、店主(悪魔)の囁きが聞こえます。渡りに舟(例えが古い)と、「では、いただきます」と伝えるときの高揚感……。「お持ちになりますか?」「イヤイヤ、払いが済んでから……」と会話は続き、「では……」と支払い前にもかかわらず品をいただいて帰る段になっても、借用書にサインも求められませんし、月払いのスタンプカードも出てきません。店との付き合いが深まれば、高額な品であってもまったくの信用取引が常なのです。

これは骨董屋からのお願いですが、持ち帰る場合でも、取置きにしてもらう場合でも、分割払いの時には、あなたから「では毎月、何日頃に幾らの支払いで……」と店主に伝えてください。店主の方でも、今後の支払い(入金)予定が判れば何かと心積もりもでき、助かるのです。あとはコツコツと約束の期日に支払いを済ませれば、完済後には晴れてあなたの愛蔵品となる訳です。めでたしめでたし……の、話は更に続きます。

■骨董病
前に書きました。骨董に1万円を使える人は1万円までの眼利きになれ、10万円なら10万円までの眼利きになれると……。月賦でも高価な品を入手できたあなたは、もうその金額までの骨董の眼利きとなっているのです。以前のお小遣い(即金)で買えた安価な骨董では、もうモノ足りなささえ感じてしまいます。やがて、食指の動く骨董は、またも月賦をお願いしなければ到底買えない品となります。やっと払い終えたばかりなのに、また次の月賦払いが始まります。

そう、世間で云う骨董病とは、この「見たい、買いたい、お金が足りない」の月賦サイクルから抜け出せぬ状況を指します。家人に知られるのを恐れながら、延々と続く支払いの日々の中、次々と目の前に現れる欲しい品……。「そうしてまでもその品が……」。そう、そうまでしても「その品が欲しい」のです。これはもう、立派な病です。病を得て、「これであなたもホンモノだ」と肩を叩く同輩もいるでしょう。その方は重症者です。健全で健康的な骨董LIFEをおくるはずが……。

不治の病と云われてきた骨董病、治しましょう。藁にもすがるお話は次回に。


東大寺大仏殿瓦鉄釘 江戸時代 長40.5-41.5cm

箱がなければ、ただの錆びた使えぬ大きな鉄釘で、とうの昔に捨てられていたでしょう。箱には「東大寺大仏殿瓦釘」と墨書きされ、東大寺の焼印が捺されています。蓋裏には「昭和大修理にあたり拝出品 昭和五十六年四月吉日」とあります。

東大寺大仏殿は天平時代に聖武天皇の発願で建てられ、その後幾度かの罹災を受け、補修再建を繰り返し、現在の大仏殿は江戸時代(18世紀)に再建されたものです。箱には瓦釘とありますので、大仏殿の屋根瓦を止めていた(支えていた)釘なのでしょう。錆びて脆くなった釘を昭和大修理の際に新たなものに取り替え、不要となった古釘は捨てられず、この様に箱書きされ有志や協賛者に頒布されたものかも知れません。

囲炉裏や火鉢が一般的ではなくなっていた昭和50年代に、火箸にしか使えぬ鉄の古釘をいただいても、はたして一般の方々に喜んでもらえたのかどうか、微妙なところですが、当時の箱に収まったまま、この様に残され今に伝わっています。東大寺創建の経緯や歴史を知る人にとっては、たとえ江戸再建時の鉄釘であっても、その錆び枯れた鉄味に東大寺一千年の風雪を想い、端正に書かれた箱書きに天平経の余韻すら感じとることも可能なのです。骨董とは、この鉄釘の様に、古物を慈しむ人々の心情が支え、伝えてきた品を指す言葉なのかも知れませんね。





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