7月2日(水) 晴
午前。茅場町のスターバックスコーヒーにて、カワイイファクトリーの原田環さんと中山真理さんが編集した、遠山正道さんの『やりたいことをやるというビジネスモデル PASS THE BATONの軌跡』を読む。キャラメルマキアートを傍らに置いていたが、途中飲むのを忘れるほど没頭する。午後、大阪からご来店くださったお客様から、お土産に甘栗をいただく。ありがたや。遠山正道さんの本を読んだせいか、お客様の眼鏡に反応し、「素敵な眼鏡ですね。どこのですか」と伺うと、「レスカです」という答え。ル・コルビュジエが手ずからデザインして愛用した眼鏡だった。7月4日(金) 曇
夜、阿佐ヶ谷駅付近にてロバート・キャンベル先生と待ち合わせ。本の受け渡し。おちあったタイミングで、前を通りかかった親子に話しかけられる。「今日は息子の誕生日なんです。握手してください」。息子さんは小学1年生というから今日で7歳。キャンベル先生は優しく「おめでとう」。しかし、息子さんはキャンベル先生が何をしている人かわからいという。お父さんは、きまりが悪そうに去っていった。駅前の西友で明治ブルガリアヨーグルトを買って帰る。7月5日(土) 曇
午後、吉祥寺パルコのリブロにて、夏葉社の島田潤一郎さんが出版した『あしたから出版社』のトークショーに参加。この本は晶文社の「就職しないで生きるには21」シリーズの一冊で、拙著『荒野の古本屋』より初動が良いらしく、売れ行き好調という。編集者は何気なくそのことを口にしたが、フツフツと悔しさが込み上げてきた。私も人の子である。トーク終了後に、近所の中華料理店にて餃子とビールをいただく。Roundaboutを覗いて茅場町へ戻る。7月8日(火) 晴
午前、『芸術新潮』の連載「作家が覗いたレンズ」の取材で、柴崎友香さんにインタビューを行う。デビュー作『きょうのできごと』を除いて、これまですべての小説に写真とカメラの記述がある柴崎さんは、「カメラという道具の過渡期にあって、そこから生まれる写真の在りさまによって、書く小説も変化してきた」という。写真の話もさることながら、70年代のテレビ番組の思い出もたのしく伺う。仮面ライダーストロンガーに話題が及んだ時は、自分もよく見ていたので、変身のポーズをやりたくなる衝動が込み上げてきた。左手を腰にあて、右腕をまっすぐ伸ばし、大きく旋回。それなりの表情で。およそ33年ぶりくらいに行ったが、うまくいった。柴崎さんも喜んでくださったのではないだろうか。お昼、長寿庵でせいろをいただく。7月10日(木) 曇
帰宅途中、阿佐ヶ谷駅前の「書楽」にて、酒井順子『本が多すぎる』の文春文庫版を求める。880円に消費税。明日は台風8号が上陸し激しい雨になると、ニュース番組が伝える。本の売り上げは見込めない。7月14日(月) 晴
午前、銀座のマガジンハウスへ。酒にまつわるエッセイについて編集者からのアドバイス。二部構成で書いてみたが、一つにまとめた方が良いとのとこ。その後、徒歩で八丁掘へ。カワイイファクトリーの原田さんと中山さんが、パンとコーヒーのお店をあたしくオープンさせた。その名も「Cawaii bread & coffee」。内装を担当したのはSANAA。パンを食べていたら西沢立衛さんがいらしたのでご挨拶。クロワッサンもコーヒーもおいしい。夜、青山の「茶々」にて、『Wabi-Sabi わびさびを読み解く for Artists, Designers, Poets & Philosophers』(ビー・エヌ・エヌ新社)のあとがきを一緒に書かせてもらった、takram design engineeringの渡邉康太郎さんとはじめて会う。7月16日(水) 晴
営業終了後、日比谷線に乗って、馬喰町の「ともすけ食堂」へ。デザイナーの鎌田充浩さんとフォトグラファーの高橋マナミさんとの会食。前日は2時間ほどしか眠れていなく、ヘロヘロな状態で臨んだが、ビールを飲んでワインを飲むと、やはり寝てしまう。申し訳ございません。これでは三人でいる意味がないが、お二人は一体どんな話をしていたのだろうか。7月18日(金) 曇
お昼。清澄白河駅で晶文社の斎藤典貴さんと待ち合わせ。Coci la elleのひがしちかさんのアトリエへ行く。書籍の打ち合わせ。私はただの同伴者。ソファーに座ってお茶を飲んでビスケットを食べると、案の定眠くなる。この日もほとんど眠れていなかったので、まったくもってお話にならない状態でお二人には申し訳なく思う。そのあと近所の「山食堂」に移動しランチをいただく。先日の「ともすけ食堂」もそうだが、おもわず使いたくなるような器やお箸で料理を出してくださるのは、食事をより素晴らしい時間にしてくれる。タクシーで茅場町までもどる。7月22日 曇
お昼、アートディレクターの宮古美智代さんと鎌倉駅にて待ち合わせ。某企画の取材の準備。山あいの小道を縫ってライターのOさんのご自宅へ伺う。Oさんのご自宅は某文学者の旧邸で、昭和の初めに建ち、非常に趣がある。Oさんが所有している骨董や古道具、テキスタイル、を見せてもらう。その後にお手製のランチをご馳走になり、蔵書も拝見させていただく。7月26日 晴
早朝、羽田空港へ向かう。徳島行きの飛行機に搭乗するため。Phil booksの川端優子さんがトークイベントを企画してくださった。お昼、予定通り徳島阿波踊り空港に到着。イベント会場は、徳島県内の上勝町の「Cafe polestar」。空港から車で1時間強ほどかかるという。山のなかを通る県道をドライブして上勝町へ。上勝町はゴミを出さない運動に取り組んでいて、まずそのリサイクル施設を見学する。その後、さらに山道を登り、名勝・樫原の棚田に向かう。途中、自生のりんごらしきものが実っていた。どうしても食べてみたい気持ちが抑えきれず、止めたほうがいいとの助言も振り切って、一か八か食べてみることに。すると、まあまあとしか言いようのない味。よく噛んでみると滋味深い。この自然あふれる環境で読むにふさわしい本、というのがトークイベントのお題。はっきりいって、迷います。本を読む以前に、目の前に読書体験より豊かな風景が広がっている。「これは本の完敗だな」などと、すまし顔で遠くを見ながら口にしたが、「Cafe polestar」でアイスコーヒーを飲んでいたら、ちょっと本があってもいいなという気持ちが芽生えた。この場所で、世界の豊かさを言葉で再確認することができるのなら、意義があるのではないかと。そうすると何がふさわしいか。谷川俊太郎さんが朗読する「生きる」を思い出した。
「Cafe polestar」の松本卓也さんの流暢な進行により、トークイベントは無事に終了。そこからまた一時間ほど車を飛ばし、徳島市内の焼き鳥屋で打ち上げ。川端さん、松本さん、みなさま本当にありがとうございます。