インディーダイヤーが台頭した理由は、キッチンで始められる気安さだけでなく、オンラインでの宣伝、販売経路が確保されたという背景も大きかった。2005年に誕生した「エッツィ」は、個人で簡単にハンドクラフト製品のオンラインショップを開設できるサイトだ。自分で染めた糸を数かせから販売できるようになり、趣味や副業で始めたエッツィのショップで有名になったインディーダイヤーが、北米を中心にゼロ年代後半から急増した。さらに自分のサイトで糸を販売し、糸だけで生計を立てるくらいに売り上げを伸ばすダイヤーも生まれた。

もうひとつ重要なのは、編みもののSNS「ラベリー」だ。自分でつくった糸を売る「ヤーニー」として登録すると、自分の糸を紹介し、購入方法を知らせることができる。しかも、その糸の購入者がどのように使ったかというデータも蓄積されていく。しかし、市場にひしめくインディーダイヤーのなかで、どのようにしてニッターたちに「発掘」されるのか。「ダーティ・ウォーター・ダイワークス」のステファニーは言う。

「誰かが私の糸について知りたいと思ったら、まず『ラベリー』で調べるでしょう。私の糸のグループもあるし、どんな色があるのかも、その糸で編めるデザインも、ほかの人がその糸で何を編んでいるのかもそこでわかる」

「インディーダイヤー同士で競争をしているとは、あまり感じていない。マーケティングや染色テクニックなどのアイデアや、イベント情報をシェアしているから。趣味で小さくやっている人と、どんどんつくって広げていく人がいて、それぞれのスタイルでやっている」

「デザイナーの書くパターンに合わせて糸を染める方法もある。さまざまなネットワークをつくりだすいい方法なの」

ここで「デザイナー」というのは、ウエアや小物をデザインする人々のことだ。雑誌に頻繁に作品が掲載され、デザイン集を出版しているようなデザイナーから、ラベリーでパターンを時折発表するだけのデザイナーまで、こちらもいろいろあるけれど、やはり急激に増えている。ダイヤーたちは、新進デザイナーに、自分の糸を使ってデザインしてもらい、それをキットとして販売するやり方を編み出した。この方法で、まずはお互いのファンにも自分を知ってもらうことができる。ダイヤーはまた、「ヤーンクラブ」という形でも糸を販売する。ダイヤーにとっては収入と作業量をある程度見込むことができる、より着実な販売方法というわけだ。デザイナーとのコラボレーションでは、このヤーンクラブにクラブのためのデザインがついてくる。このようなデザインは、発表から一定期間はクラブメンバー限定で、一般販売されない。

ステファニーの糸は、自身のオンラインショップで販売しているほか、地元とニューヨークのウールフェスティバルなどで、年に十数回程度の対面販売を行い、ボストン市内のヤーンショップにも置いてもらっている。

「インディーダイヤーの糸の魅力は、なんといっても色。色が気に入ったら、それがどんな規模のダイヤーかなんて誰も意に介さない。でも一方で、カスタマーのほとんどが、一度は糸を手に取ってみたがることにも気づいたの。それで気に入れば、次からはオンラインで注文してくれる。イベントやフェスティバルに参加して対面で売るのはそのためね。直接糸を手に取ってもらえる機会だから」

インディーダイヤーの糸は、一般の糸と比べるとずっと高価だ。たとえば、同じウール100パーセント、1かせ100グラムの糸でも、老舗ブランドであるカスケードの「220」は9ドル前後だが、ハンドダイドヤーンブランドのマデリントッシュの「トッシュDK」は22ドルだ。この違いは、ベース糸の価格の違いのみならず、「機械染」か「ハンドダイド」かという、色を生み出す過程の違いにある。たいていのダイヤーは、染色用として出回っている工業生産品の糸を使っている。いわばキャンバスは既製品で、上に載せる色がハンドダイヤーの価値なのだ。

「インディーダイヤーは、時代の需要にうまくはまることができたのだと思う。編みものをする人たちが、何か人とは違うユニークなもの、大量生産品からは得られないものを欲しがるようになってきた。この傾向が周辺的なものではなくて、大きく広がっているのが面白いわね」

個人の小さなスタジオで少しずつ、手作業で作られる糸の対極に、いわゆるコマーシャルヤーン、大手糸メーカーやディストリビューターの糸がある。スーパーや大手クラフトチェーン店に置いてあるアクリル系の糸や、一般的なヤーンショップの棚を占める糸だ。素材のまま輸入されてアメリカ国内で紡績されるものもあれば、糸の形で輸入されるものもある。今まで見てきたような、人の手を通ってきた姿がよく見える糸とは全く違う形でニッターに届く糸の消息を知るために、私たちはロードアイランド州へ南下することにした。










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鳥古繰子 Tricoquelicot

ニットライター。多摩美術大学芸術学科卒業。外資系企業、国内手芸企業勤務を経て独立。『Peacework』や『Knitscene』など、アメリカの手芸雑誌でレポーターを務める。『毛糸だま』(日本ヴォーグ社)で海外の毛糸に関するコラムを連載中。
twitter:@tricoquelicot


1 はじまり 201605

2 バーブと羊たち 201606

3 シープ・シェア 201607

4 捨てられていたウール 201608

5 羊毛を糸にする 201609

6 染色工場 201610

7 染色工場2 201611

8 インディーダイヤー 201612

9 インディーダイヤー2 201701

10 ベロッコ社へ 201702

11 ノラ・ゴーンと 201703

12 ウェブのおかげ 201704

13 ニューヨークへ 201705

14 八布テキスタイル 201706

15 一緒に編む 201708

16 ラベリー1 201709

17 ラベリー2 201710

18 ハンナ・Fと 201711

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