自分と編みものの関係の始まりは、とてもありふれたものだったと思う。子供のころに親から編みものの手ほどきを受けて、クロシェ(かぎ針)よりはニット(棒針)が性に合うとは感じたけれど、自分はまだニッターではなかった。そのあとは大きくなるまで、特に編み針を手に取ることはしなかった。それが2000年代初頭、職場と保育園を忙しく行き来していた時期に、ふと編みものへの興味が復活した。多分、母という立場になり、ばたばたと働きながらのせわしない育児のなかで、「子供になにか手作りするお母さん」というようなことをやってみたかったのだろう。子供のものなら小さいからすぐ編めると思い、洗いやすい毛糸を探して、帽子や小さなマフラー、ミトンなど、簡単なものを編んだ。

そんなことをやっているうちに、自然と欲が出た。洗いやすいだけのアクリルの糸ではなくて、もっと素敵な糸を。子供のものばかりでなく、自分のものも。手近な本屋で手にとれる編みものの本は限られていて、いろいろ探し歩けるほどの余裕はなかったから、自然とインターネットに情報を求めることになった。

オンラインでたどりついたのは、アメリカのニットの世界だった。当時のアメリカでは、編みものが新しい形の「楽しみ」として受容され、「ブーム」と言っていいような盛り上がりを見せていた。街角のカフェで、すきま時間に編みものを楽しむ人たちが増え、ベストセラーになるようなニット関連書籍も生まれていた。編みものがブームとして認知されると同時に、ジュリア・ロバーツやサラ・ジェシカ・パーカーといったセレブリティが編みものをしている姿が話題になり、「ニッティングは新しいヨガか?」などと、アメリカのメディアでたびたび取り上げられるようになっていた。ウェブ上にもニッターのコミュニティが広がり始めていた。ニッター同士のつながりが大きなうねりとなると同時に、小規模、インディーズの編み糸の生産者やニット・デザイナーがつぎつぎと誕生していった。そのエキサイティングな状況に、私は目が離せなくなった。その新しい流れを作ってきた人々が、実際に糸を紡ぎ、染め、編んでいる場所を見たいと思った。

編み糸の素材といえば、まずはウールだ。ウールという言葉は、羊の毛のみならずアルパカやカシミア、モヘアといった動物の毛のことも指す。だが本来のウールとは、羊から採取される繊維のことだ。羊から刈りとった羊毛が毛糸の形になってニッターの手元に辿りつくまでには、通り抜けるべきいくつもの段階がある。2013年の夏、アメリカ東海岸を旅しながら、この過程を追った。







最初に紹介する糸は、私自身が手染めしたもの。北米で盛り上がっていたインディペンデントの手染め糸を集めるうちに、自分で染めることができれば買う量を抑えられるのではと思った。その考えはまったくの間違いだったが、手染めのやり方の情報を集め、染料を取り寄せ、染めはじめた。

当時、国内で個人が販売するのは難しかったから、アメリカのハンドクラフト販売サイト「Etsy」で、主に北米向けに販売を始めた。2008年頃からほんの1、2年だったが、そのときのベース糸で大切に手元に残していたものを、今回新しく染めた。

「Margo」は、洗いやすいよう特に注文をつけて探してもらった糸だ。靴下用のラベル表記になっているが、100g約300m/330yds、合太程度の太さ。程よくナイロン入りの糸は当時国内で見つけられず、スーパーウォッシュウール100%。ふっくらとした、肌触りのいい柔らかな糸なので、今なら帽子や小さめのカウル(ネックウォーマー)にも向いているのではと思う。ラベル記載の適合針は2号だが、靴下でないならもっと太目の針でゆったり編める。今回用意したのは13色。



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鳥古繰子 Tricoquelicot

ニットライター。多摩美術大学芸術学科卒業。外資系企業、国内手芸企業勤務を経て独立。『Peacework』や『Knitscene』など、アメリカの手芸雑誌でレポーターを務める。『毛糸だま』(日本ヴォーグ社)で海外の毛糸に関するコラムを連載中。
twitter:@tricoquelicot


1 はじまり 201605

2 バーブと羊たち 201606

3 シープ・シェア 201607

4 捨てられていたウール 201608

5 羊毛を糸にする 201609

6 染色工場 201610

7 染色工場2 201611

8 インディーダイヤー 201612

9 インディーダイヤー2 201701

10 ベロッコ社へ 201702

11 ノラ・ゴーンと 201703

12 ウェブのおかげ 201704

13 ニューヨークへ 201705

14 八布テキスタイル 201706

15 一緒に編む 201708

16 ラベリー1 201709

17 ラベリー2 201710

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