土曜の朝に、グリーン・マウンテン・スピナリーを訪れた。オリジナル糸を販売するヤーンショップを覗き、店番をしていた女性にスピナリーの見学をお願いする。この店のレジの裏が、壁一枚を挟んでそのまま紡績工場だ。エリカという名のその女性は、紡績所内を快く案内してくれた。

最初にストックルームに向かう。クライアントから預かったウールの塊が、ベール(1×1×1メートルぐらいの、羊毛を詰める四角い大きな袋)に詰まって、いくつも保管されている。羊毛があちこちにこぼれ落ちていて、うっすらとけものの匂いがする。刈られたままの、汚れのたっぷりついた羊毛が積まれている場所だからか。ちいさな窓から差し込む光に埃が光る。

それから紡績スペースにもどって、エリカが工程の説明を始める。スピナリーにやってきた羊毛はまず、こびりついた汚れや皮脂(グリース)を落とす洗浄(スカーリング)をする必要がある。スカーリングマシンを通し、羊毛を湯と石鹸で洗浄してから脱水する機械は、大きな桶のような丸い形だ。この脱水機は1896年製造と、120年もののヴィンテージだ。昔の機械は今のよりずっと頑丈で、古いけれど問題なく使えるの、とエリカが微笑む。

脱水した塊状の羊毛は、ほぐしながら乾燥(ピッキング)させる必要がある。ピッキングマシンの噴出孔からは、石油ストーブの煙突のような管が階段下の小部屋に伸びている。中は古い木製で、がらんとした小さな厩のようだった。ピッキング作業後は、この場所はふわふわの羊毛で満たされる。ほかのファイバーをブレンドする場合は、ここで混ぜ入れる。

ピッキング作業は2回か3回おこない、その最後の回に、スピニング・オイルを噴霧する。適度な湿度を与えることで、静電気を防ぎ、この後の加工機器のなかを通りやすくするためだ。このスピナリーではオーガニックのガイドラインに従ってキャノーラ・オイルが使われている。水、オイル、石鹸、クエン酸のミックス液だ。

そのあと、ようやく羊毛の繊維を細かく梳ってほぐすカーディングの作業に移る。羊毛は、とげだらけのローラーをいくつも重ねたようなカーダーという機械を通り、さらに細かいファイン・カーダーを通るうちに、だんだん「繊維」という言葉にふさわしくなっていく。1916年製造の、これまた100年物のカーダーから出てきた、透けるような平たい綿状の繊維は、バットと呼ばれる。バットは次のローラーでさらに薄くなり、何本ものラバーバンドの上に細めのリボン状となって分かれていき、糸となる準備を整えていく。この工程の最後に、繊維は「ロービング」と呼ばれる紐状の形になる。しかし、まだ糸ではない。「撚り(スピン)」がかかっていないのだ。

次に、1951年製のスピニング・フレームへ、このロービングのロールをセットする。一度に96個のボビンをセットできるこの機械によって撚りがかけられ、木製のボビンに巻き取られて、ようやく糸らしい糸となって現れる。糸の撚りのかかり具合や太さの調節は、年期と経験と技術が必要な、繊細な仕事だ。このときこの小さな紡績所では、96個のボビンの調節はたったひとりの女性が管理していた。

1本で撚りがかけられただけのシングルプライの糸は、かけた撚りを安定させ繊維を固定するためにスチーマーに3時間ほど入れられる。その後必要に応じて糸同士でさらに撚り合わせ、2プライ、3プライ、あるいは4プライの糸になる。撚りおわった毛糸は改めて木製のボビンに巻き取られ、再度数時間のスチーマーを経て、ようやく毛糸と呼ばれるものになる。そのあとで、織りに使われる糸はコーン(紙芯のある円錐台の固い太巻き)に、手編みに使われる糸はハンク(かせ)の形に巻き取る機械にかけられる。

スピナリーでは染色作業は行わないので、オリジナル糸は大半がここでいったん外部の染色加工に回される。戻ってきた糸のかせを、スタッフが一つひとつ手作業でねじり上げて整え、ラベルを留めつける。その作業中に最終のクオリティコントロールが行われて、ショップの棚に並ぶことになる。

自然のままの糸は、羊色をしている。つまり生成り、グレイ、黒に近いような茶といった色だ。グリーン・マウンテン・スピナリーでは、自然の色のままの糸も製造販売しているが、通常のヤーンショップの棚を埋めている糸は、もっと豊かな色彩をまとっている。糸を染める工程は、ファイバーの段階でもできるし、糸になってからでもできる。その色を与えるのが、ダイハウスだ。




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鳥古繰子 Tricoquelicot

ニットライター。多摩美術大学芸術学科卒業。外資系企業、国内手芸企業勤務を経て独立。『Peacework』や『Knitscene』など、アメリカの手芸雑誌でレポーターを務める。『毛糸だま』(日本ヴォーグ社)で海外の毛糸に関するコラムを連載中。
twitter:@tricoquelicot


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