*この連載は seikanet(骨董通販サイト)の関連企画です

13 塼仏





honogra 激烈探訪記。今回は塼仏(せんぶつ)。年画→牛王宝印→瓦経ときて、このたびもまた複製可能性にまつわる品物が選択されました。もしやセレクトにかける労力を惜しんでいるのでは? という手抜き疑惑が生じるのですが、小松さん自身は反復され並列される物に対してある種の偏愛を持っているとのことで、それはこの取材を通して発見した嗜好だったと言っています。小松さんは見出された己の好みをあえて押し通すことを選んだわけです。ちなみにウォーホールの作品も好きだそうです。同型、同種、同手の物を並べることに快を見出す反復派というのが古物商には少なからずいて、たとえば坂田さんはそうした一面があった人でしょう。朝鮮の平瓦だけをずらりと床面に並べてみせる。あれは大量生産の容易な物体を一見しただけでは識別不能に並べることで、”これただ一つ”という逸品志向を惑乱させる意図的なインスタレーションだと見ることができます。さらにタミゼの吉田さんになると、工業製品の紙箱を重ねて積み上げた佇まいを提示するわけで、物一つ一つの差異の判別はより困難なものになっています。この両人はことのほか意識的に反復への意志を示すのですが、小松さんの反復好きはどうも違う。人から言われて自分の嗜好性に気づくぐらいですから、近代的な意味での創造に伴う自意識とは無縁なのかもしれません。この企画の取材の中で、一度小松さんにこんなことを聞いたことがありました。「いま、骨董の世界での最先端ってなんでしょうね?」と。すると「お客さんの欲しい物を探して渡すという行為に、最先端とかあるんですかね。それは考えたこともない」と小松さんは言ったのでした。坂田以後に根づいた、表現としての古物とも言うべき概念がまったく通用しないことに、とても衝撃を受けました。好きな物を追求するアティテュードにおいては共通する坂田さんと小松さんでも、まるで近代の芸術家と中世の職人ほどに意識の違いがあるようで、とても興味を覚えました。ここから敷衍して今の骨董の行く末を考えてみたくもあるのですが、紙数が尽きるので後篇に回すことにして、まずは塼仏について。

塼仏とは型で成形した粘土を焼成したタイル状の半肉彫りの仏像のことで、インドが発祥で、中国を経て日本に伝わり、寺院の堂内を飾る荘厳もしくは念持仏として7世紀後半の白鳳時代に盛んに作られました。塼仏の出土する寺院は、奈良・大阪・京都・兵庫・三重・滋賀と近畿圏に集中しますが、中に大分のような例外もあります。大分の虚空蔵寺の塼仏を小松さんは持っているそうですが、例によって見つけ出すことができなかったとのことで、今回見ることは叶わず。この際勝手に押しかけて honogra の倉庫を断捨離したい気分です。お店に並んでいたのは、奈良の橘寺・川原寺・山田寺のものでした。橘寺は聖徳太子が建立したという伝承がある寺で、付近に太子が誕生したとされる場所があります。考古学的知見では、ここの遺物が最古の塼仏と言われています。堂内を装飾するほどの量を作らなければならないのに、それらを起こす原型は一つしかなかったそうです。研究によれば、原型の素材は木か金属、もしくは塼仏そのものが原型となった可能性もあるとのこと。原型に粘土を押し当てて笵型を作り、その笵型にさらに粘土を押し当てて乾燥させ焼き固めたものが塼仏です。貴重な原型から起こした笵は使いまわされ、寺院は違うのに笵は同じという例がよくあります。それこそ橘寺と川原寺の方形三尊塼仏は同笵です[上]。小松さんがそれぞれ所有しているおかげで見比べる機を得たのですが、橘寺の方には古様を示す突帯というか縁があったりと、わずかな違いはありながら、同じ型から起こしたものであろうことは一目瞭然です。川原寺の方は仏様の頭部が青黒くなっていて、発掘の土錆かと思っていたら、小松さんが言うには、群青の彩色跡だそうです。資料にあたると、金箔の上から藍銅鉱を砕いて作った岩群青を塗って青色を出したとのこと。もう一つ橘寺の塼仏で上端を尖らせた火頭形と呼ばれるものが並べてあり、これは方形に比べて厚手です。橘寺の塼仏には方形と火頭形の二種類があるそうですが、しれっとその二つを並べているのが小松さんの底知れないところです。

窶れて侘びた土塊から往時の絢爛さを想像するのは、なかなか難しいのですが、相当の権力の産物であることは分かります。それでも、塼仏の遺構として知られる寺院は有力氏族の氏寺級のものに限られ、寺格の上がる官立の大官大寺や本薬師寺といった寺からは塼仏の出土はありません。官寺の荘厳には織物の繍仏が使われていたようで、そうなると手間のかかり方は塼仏の比ではないでしょう。

唯一性と複製可能性と権力の絡みというのは、古物骨董古美術を考えるときに切り離せない命題だと思うのですが、商いをしていてなかなかそんな面倒なことを考える暇な人もいないでしょうから、かくなるうえは暇人代表を自認して、次回なにかしら思うことを書いてみます。



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