撮影|石川昌浩
どうして工芸店をはじめたんですか? とときどき聞かれます。たいていは、よくこんな割りに合わない商売を何の因果で、という方や、わたしも店をはじめたいんですけれど、という方からの問いかけで、いつも、なりゆきでうっかりと、と答えます。実際その通りなのでそうとしか答えようが無いのですが、そうすると特に後者が困惑の表情を浮かべることもあり、そんな時には慌てて補足します。それよりもむしろ、曲がりなりにも十数年のあいだ、店を続けてこれた理由をひとつお話ししますよ、正しいかどうかは分からないけれど、店をはじめるんでしたら、こちらの方が参考になるかも知れないので、よければ聞いてください、と。

僕も教えていただいたことですが、請求書が届いたら即日払ってきたからだと思ってます。法人でももちろん、自営業としてなさるならばなおさら、支払いは迅速に。大きな支払いが続く時はほんとうにしんどいけど、作り手は支払いが早い店を必ず信用してくれるようになりますから。たまに、ちゃんと支払いを済ませてから店を閉じれば再起もできたろうに、という店もあるんですが、みんなにとって悲しいことなので、そうならないように僕も気をつけたいですね。更にいえば、一度だけの取引ではなく、長く付き合うほど、お互いの意図も通じるようになって、なにも言わずともやって欲しい仕事をしてくれるようになったりしますね。とはいえ、僕は心が狭くて出会える人が少ないので、作り手の数は少なめ、その分、ひとりひとりとは長めに付き合って、かつ、一人当たりになるべく多く払いたい、例えば子供がいる作り手なら、国公立大学の学費と下宿代ぐらいは出せるようにしたい、という方針でここまで店を続けてきました。店を開けてしばらくするとわかるんですけど、1年間で売り上げることのできる金額ってだいたい上限があるんですよ。ちなみに下限はありません。もちろん人を増やしたり、よその場所に出向いたり、webなどを通じて売ったりすることで販路を広げることはできますけど、そうなると今度は仕入れに限度が生じる。作り手が1年間に作ることのできる数って決まってますから。いくらでも作れるものもあるのかもしれないけれど、そういうものを扱いたくて店をするわけではないでしょう? そうなると、誰のものを、どれくらい仕入れて売り、売り上げを誰に、どう払うかこそが店の姿を決めるんじゃないかな、って思うんです。出会えた作り手を大切にして、しっかり売って、しっかり払い続けてくださいね。僕もがんばります。

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